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岩波文庫論
いわなみぶんころん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「出版人の遺文 岩波書店 岩波茂雄」 栗田書店
1968(昭和43)年6月1日
初出「東京帝国大学新聞」1938(昭和13)年9月19日
入力者鈴木厚司
校正者染川隆俊
公開 / 更新2009-04-25 / 2014-09-21
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 編集部より岩波文庫について語れとの話ですから、思いつくままを申し上げます。現在は文庫時代ともいってよいほど各種の廉価版が行なわれ、どこにおいても欲しいものが自由に求められることになっているが、今より十数年前は予約出版の円本が流行して一世を風靡したのである。この流行によって学芸が一般に普及した功績は認めねばならぬが、また一方、好ましくない影響も少なくなかった。特に編集、翻訳、普及の方法などにははなはだ遺憾の点のあったことはこばむことは出来ない。この流行に刺激されて、学芸普及の形式はかくありたいものだと小さい私の野心から生まれたものが岩波文庫である。岩波文庫を刊行するに際し、私が読書子に寄せた辞の
「近時大量生産予約出版の流行を見る。その広告宣伝の狂態は姑く措くも、後代に貽すと誇称する全集が其編集に万全の用意をなしたるか。千古の典籍の翻訳企図に敬虔の態度を欠かざりしか。更に分売を許さず読者を繋縛して数十冊を強ふるがごとき、果して其揚言する学芸開放の所以なりや。吾人は天下の名士の声に和して之を推挙するに躊躇するものである。」
という一節を読み直してみても、その激越なる口調に当時の流行に対しいかに私が反撥心を持ったかがわかる。良書を廉価にということは本屋として誰でも思いつくことであるが、私も学生時代に親しんだカッセル版、レクラム版のような便宜なものをいつか出したいと志してきた矢先、ちょうど円本の流行はこの念願を実現する動因となったのである。

      ○

 岩波文庫は平福百穂画伯の装幀をもって昭和二年刊行された。これを発表した時の影響の絶大なりしことは実に驚いた。讃美、激励、希望等の書信が数千通に達した。「私の教養の一切を岩波文庫に托する」などという感激の文字もあった。私はよい仕事だ、高貴な永遠の事業だ、達成すべき企てだ、後には必ず成就する仕事だと考えたが、かくまで速かに、かくまで盛んに歓迎されるとは思わなかった。Du kannst, denn du sollst. は私の絶愛の句であるが、誠心誠意、読書子のために計る仕事は必ず酬いられるものであるとの確信を得た。私は本屋になった甲斐のあったことを初めて知り、責任のますます重きを痛感した。
 岩波文庫は古今東西の古典の普及を使命とする。古典の尊重すべきは言うまでもない。その普及の程度は直ちに文化の水準を示すものである。したがって文庫出版については敬虔なる態度を持し、古典に対する尊敬と愛とを失ってはならない。私は及ばずながらもこの理想を実現しようと心がけ、一般単行本に対するよりも、さらに厳粛なる態度をもって文庫の出版に臨んだ。文庫の編入すべき典籍の厳選はもちろん、編集、校訂、翻訳等、その道の権威者を煩わして最善をつくすことに人知れぬ苦心をしたのである。従来行なわれているものをそのまま編入すれば便宜なる時も、より…

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