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寒中滞岳記
かんちゅうたいがくき
副題(十月一日より十二月廿一日に至る八十二日間)
(じゅうがつついたちよりじゅうにがつにじゅういちにちにいたるはちじゅうににちかん)
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「山の旅 明治・大正篇」 岩波文庫、岩波書店
2003(平成15)年9月17日
初出「富士案内」春陽堂、1901(明治34)年8月
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-03-08 / 2014-09-21
長さの目安約 17 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 玄冬の候、富士山巓の光景は、果して如何なるものなるべきや。吾人の想像以上なるべきか、これを探[#挿絵]して以て世に紹介せんことは、強ち無益の挙にあらざるべし、よって予はここに寒中の登岳を勧誘せんと欲するに臨み、先ず予が先年寒中滞岳中の状況を叙述して、いささか参考に供する所あらんとす、既に人の知る如く、富士山巓は木の葉一枚だになき、極めて磽[#挿絵]なる土地なれば、越年八月間の準備は、すこぶる多端なりし、しかも平地に於ける準備と異なり、音信不通の場所なれば、もし必要品の一だも欠くることあらんか、到底これを需むるに道なし、故に事物によりては直ちに生命に関するものあり、しかも滞在半年余の長日月を要する胸算なりしがゆえに、すこぶる注意周到なる準備を為すにあらざれば、能く堪え得べきに非ず、予は冬籠り後の困難はむしろ苦とは思わざりしが、諸準備の経費の遣り繰りには、かなり頭を痛めたり、加うるに観測所の構造、材料運搬の方法、採暖の装置、食料もしくは被服の撰択等、多くは相談相手となるべき、経験者なき事柄のみなれば、大抵自ら考慮を回らさざるべからず、殊に測器の装置、荷物の搬上する道筋の撰択等自ら踏査を要するが如き、古えより二度登るものは馬鹿とさえ言伝えられたるにもかかわらず、十数回の昇降をなし、また山頂は快晴なるも五、六合辺にて風雨に遮られ、建築材料延着のため、山頂に滞在せる大工石工人夫ら二十余名が手を空しくして徒食せるにもかかわらず、予約の賃金は払わざるべからず、しかもその風雨は何時晴るべき見極めも付かず、あるいは日光のために、眩暈と激烈なる頭痛とに悩まされて、石工らの倒るるあり、また程なく落成せんと楽める前日に、暴風雨の襲来に遇い、数十日の日子と労力とを費して搬び上げたる木材を噴火坑内に吹き飛ばされ、剰さえ人夫らの中に、寒気と風雨とに恐れ、ために物議を生じて、四面朦朧咫尺を弁ぜざるに乗じて、何時の間にか下山せしものありたるため、翌日落成すべき建築もなお竣工を告ぐる能わざる等、故障続出して、心痛常に絶ゆることなかりし、かかる有様なれば残余の人夫に対しては、あるいは呵責し、あるいは慰撫し、随て勢い賃金を増すにあらざれば、同盟罷工を為し兼ねまじき有様に至りたるが如き、かかる場合に於て、予も幾分か頭痛を感ずることあるも、何ともなきを仮粧したり、また土用中なるにもかかわらず寒気凜冽にして、歯の根も合わぬほどなるも、風雨の中を縦横奔走して、指揮監督し、或る時は自ら鍬を揮い、または自ら衣を剥で人夫に与え、力めて平気の顔色を粧い居たりしも、予も均しく人間なれば、その実甚だ難義なりしなり、特に最終の登山前は、気象台との打合せ、または東京より廻送すべき荷物(東京に於て特に注意して搗かしめたる白米または家財等)さては祖父の墓参を為すなど、およそ一週日ばかりは、殆んど昼夜忙殺の有様なりし、さてい…

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