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第二邪宗門
だいにじゃしゅうもん
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「白秋全集 1」 岩波書店
1984(昭和59)年12月5日
入力者飛鷹美緒
校正者林幸雄
公開 / 更新2010-07-26 / 2014-09-21
長さの目安約 47 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

円燈


飢渇

あな熱し、あな苦し、あなたづたづし。

わが熱き炎の都、
都なる煉瓦の沙漠、
沙漠なる硫黄の海の広小路、そのただなかに、
饑ゑにたるトリイトン神の立像、
水涸れ果てし噴水の大水盤の繞には、
白琺瑯の石の級ただ照り渇き痺れたる。

そのかげに、紅き襯衣ぬぎ
悲しめる道化芝居の触木うち、
自棄に弾くギタルラ弾者と、癪持と、
淫の舞の眩暈、
さては火酒かぶりつつ強ひて転がる酔漢と、
笑ひひしめく盲らは西瓜をぞ切る。

あな熱し、あな苦し、あなたづたづし。

既に見よ、瞬間のさき、
仄かなる愁の文にしみじみと
竜馬の羽うらにほひ透き、揺れて縺つれし
水盤の水ひとたまり。
あるはまた、螺を吹く神の息づかひ
焔に頻吹きひえびえと沁みにし歌も
今ははや空びぬ、聴くは饑ゑ疲れ
鉛になやむ地の管の苦しき叫喚。

あな熱し、あな苦し、あなたづたづし。

虚空には銅色の日の髑髏転びかがやき、
雲はまた血のごと沈黙に鎔けゆき影だに留めず。
ただ病める東南風のみぞ重たげに、また、たゆたげに、
腐れたる翼の毒を羽ばたたく。
七月末の長旱、今しも真昼、
煉獄の苦熱の呵責そのままに
火輪車駛り、石油泣き、瓦斯の香喊き、
真黒げに煙突震ふ狂ほしさ、その騒かしさ。

誰ぞ、また、けたたましくも、
朱の息引き切るるごと、
狂気なす自動車駆るは。

あな熱し、あな苦し、あなたづたづし。

狂気者よ、人轢き殺せ。
癪持よ、血を吐き尽せ。
掻き鳴らせ、絃切るるまで。
打ち鳴らせ、木の折るるまで。
飛びめぐれ、息の根絶えよ。
酔へよ、また娑婆にな覚めそ。
盲らよ、その赤き腸を吸へ。
あはれ、あはれ、
この旱つづかむかぎり、
汝が飢渇癒えむすべなし。

あな熱し、あな苦し、あなたづたづし。

わかき喇叭

苦しげに喇叭吹く息、
苦しげに喇叭吹く息、
汝はゆきていづくにかへる。

心臓のあかきくるめき
そを洩れて吹きいづるなる。
なやましき霊のひとすぢ
いと冷やき水の音色に。

毒ふかき邪欲の谷に
淫楽の蝮まとふ、
はたや身は痺れとろけて
断ちがたきほだしに悩む。

狂念のめくらむ野辺ゆ
挑み搏つ硫黄の炎、
また苦き檻のおびえに
くれなゐの破滅をさそふ。

さまだるる恋慕のあへぎ
蒸しよどみ、かくてなやめど
われは吹く、息もほつほつ
うらわかき霊の喇叭を。

かげ暗き恐怖の垂葉
そのなかに赤き実熟るる。
わが夢はあなその空に
濡れつつも燃ゆる悲愁。

濡れつつも燃ゆるかなしみ
そが犠牲に吹きいづるなる。
かぎりなき生命の苦痛
かぎりある胸の力に。

あはれ、なほ、喇叭吹く息、
あはれ、なほ、喇叭吹く息、
汝はゆきていづくにかへる。

青き葉の銀杏のはやし

青き葉の銀杏の林、
細らなる若樹の林。

はた、青き白日の日かげに、
葉も顫ふ銀杏の林。

そのもとを北へかすめる、
ひややけき路のひ…

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