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猥褻独問答
わいせつひとりもんどう
作品ID49675
著者永井 荷風
文字遣い新字旧仮名
底本 「荷風随筆集(下)〔全2冊〕」 岩波文庫、岩波書店
1986(昭和61)年11月17日
入力者門田裕志
校正者阿部哲也
公開 / 更新2010-04-11 / 2021-02-04
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

○猥※[#「褒」の「保」に代えて「執」、U+465D、245-2]なる文学絵画の世を害する事元より論なし。書生猥※[#「褒」の「保」に代えて「執」、U+465D、245-2]なる小説を手にすれば学問をそつちのけにして下女の尻を追ふべく、親爺猥※[#「褒」の「保」に代えて「執」、U+465D、245-3]なる画を見れば忽ち養女に手を出すべし。懼れざるべけんや。
○然らば何を以てか猥※[#「褒」の「保」に代えて「執」、U+465D、245-5]なる文学絵画といふや。人をして淫慾を興さしむるものをいふなり。人とは如何なる人を指せるや。社会一般を指すなり、十人が十人の事をいふなり。然らばここに一冊子あり。これを読みて十中五人はあぢな気を興し五人は一向平気ならば如何となす。十中の五人をして気を悪くせしむるものはこれ明に猥※[#「褒」の「保」に代えて「執」、U+465D、245-8]のものなり。然らば十中の一人独り春情を催したりとせば如何。これ猥※[#「褒」の「保」に代えて「執」、U+465D、245-9]の嫌ひあるものなり。猥※[#「褒」の「保」に代えて「執」、U+465D、245-9]の嫌ひあるもの果して全く猥※[#「褒」の「保」に代えて「執」、U+465D、245-9]なるや否や。凡そ徳を尚ぶものは悪の大小を問はざる也。凡て不善に近きものを遠ざく。何ぞ猥※[#「褒」の「保」に代えて「執」、U+465D、245-11]の真偽を究むるの要あらんや。
○文学美術にして猥※[#「褒」の「保」に代えて「執」、U+465D、246-1]の嫌ひあるもの甚だ多し。恋愛を描ける小説、婦女の裸体を描ける絵画の類、悉くこれを排くべき歟。悉くこれを排けて可なり。善を喜ぶのあまり時に悪を憎む事甚しきに過ぐると、悪を憐みて遂に悪に染むと、その弊いづれか大なるや。猥※[#「褒」の「保」に代えて「執」、U+465D、246-3]に近きものを排くるは人をして危きに近よらしめざるなり。
○危きに近よらざるは好し。然れども危きを恐れて常に遠ざかる事の甚しきに過ぎんか。一度誤つて近けば忽陥つて復救ふべからざるに至るの虞なからんか。厳に過ぐるの弊寛に流るるの弊に比して決して小なりといふを得んや。
○およそ事の利害にして相伴はざるは稀なり。倹約は吝嗇に傾きやすく文華は淫肆に陥りやすく尚武はとかくお釜をねらひたがるなり。尚武の人は言ふおかまは武士道の弊の一端なり。白璧の微瑕なり。一の弊あるも九の徳あらばその弊何ぞ言ふに足らんや。風流の人は言ふ風流人の淫行は人間の淫行にして野獣の淫に非らず、人情の美を基とするを忘れざるなり。文明の人は淫するも時あれば必ず悟る。悟れば再びその愚を反復する事なし。武骨一片の野暮一度淫すれば必ず溺る。溺れて後大に憤つて治郎左衛門をきめるなり。淫事の恐るべきは武骨一片の野暮なるが故にし…

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