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飛騨の怪談
ひだのかいだん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選」 メディアファクトリー
2008(平成20)年3月5日
初出「やまと新聞」1912(大正元)年11月13日~1913(大正2)年1月21日
入力者川山隆
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-09-16 / 2014-09-16
長さの目安約 204 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

(一)

 綺堂君、足下。
 聡明なる読者諸君の中にも、この物語に対して「余り嘘らしい」という批評を下す人があるかも知れぬ。否、足下自身も或は其一人であるかも知れぬ。が、果して嘘らしいか真実らしいかは、終末まで読んで見れば自然に判る。
 嘘らしいような不思議の話でも、漸々に理屈を詮じ詰めて行くと、それ相当の根拠のあることを発見するものだ。
 勿論、僕は足下に対して、単にこの材料の調書を提供するに過ぎない。之を小説風に潤色して、更に読者の前に提供するのは、即ち足下の役目である。宜しく頼む。
大正元年十一月
XY生
      *      *      *
          *      *      *

 こんな手紙と原稿とを突然に投げ付けられては、私も少しく面食わざるを得ない。宜しく頼むと云われても、これは余ほどの難物である。例えば、蟹だか蛸だか鮟鱇だか正体の判らぬ魚を眼前へ突き付けて、「さあ、之を旨く食わして呉れ」と云われては、大抵の料理番も聊か逡巡ぐであろう。況んや素人の小生に於てをや。この包丁塩梅甚だ心許ない。
 随って実際は真実らしい話も、私の廻らぬ筆に因って、却って嘘らしく聞えるかも知れぬが、それは最初から御詫を申して置いて、扨いよいよ本文に取かかる。これは今から十七八年以前の昔話と御承知あれ。
 北国をめぐる旅人が、小百合火の夜燃ゆる神通川を後に、二人輓きの人車に揺られつつ富山の町を出て、竹藪の多い村里に白粉臭い女のさまよう上大久保を過ぎると、下大久保、笹津の寂しい村々の柴焚く烟が車の上に流れて来る。所謂越中平の平野はここに尽きて、岩を噛む神通川の激流を右に視ながら、爪先上りに嶮しい山路を辿って行くと、眉を圧する飛騨の山々は、宛がら行手を遮るように峭り立って、気の弱い旅人を脅かすように見えるであろう。
 けれども、地図によれば此処らは未だ越中の領分で、足腰の疼痛に泣く旅人も無し、山霧に酔う女もあるまいが、更に進んで雲を凌ぐ庵峠を越え、川を抱いたる片掛村を過ぎて、越中飛騨の国境という加賀澤に着くと、天地の形が愈よ変って来て、「これが飛騨へ入る第一の関門だな。」と、何人にも一種の恐怖と警戒とを与えるであろう。乱山重畳、草鞋の穿けぬ人の通るべき道ではない。
 この加賀澤から更に二十里ほどの奥であると云えば、其の地勢などは委しく説明する必要もあるまい。そこに戸数八十戸ばかりの小さい駅がある。山間の平地に開かれた町で、学校もあれば寺院もあり、且は近年其附近に銀山が拓かれるとか云うので、土地は漸次に繁昌に向い、小料理屋のようなものも二三軒出来て、口臙脂の厚い女が斯んな唄を謡う様になった。

行くにゃ辛いがお山は飛騨よ
   黄金白金花が咲く

「小旦那……小旦那……。昨夜も亦、彌作の内で鶏を盗られたと云いますよ。」
「鶏を……。誰に盗られたろう。又、銀…

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