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道中記
どうちゅうき
作品ID49683
著者種田 山頭火
文字遣い新字旧仮名
底本 「山頭火全集 第八巻」 春陽堂書店
1987(昭和62)年7月25日
入力者小林繁雄
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2010-05-24 / 2014-09-21
長さの目安約 29 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 三月十二日 晴、春寒、笹鳴、そして出立――八幡。

昨夜は夜通し眠れなかつた、出立前に、アメリカ同人の贈物ポピーを播いてをく!
今朝の誓願、今後は焼酎を飲むまいぞ、総じて火酒は私に向かない、火酒を飲んでロクな事があつたタメシがない、火酒は地獄の使だ!
やつとこさで、九時の汽車に乗れた、やれ/\、今日の新聞は車内で読ませて貰つた。
十一時、関門海峡を渡る。――
急いで、日本銀行支店の岔水君を訪ふ、岔水君は若い江戸ッ児のよさだけを私にあらはしてくれる、ありがたいことである。
黎々火君は出張不在、軽い失望、帰途の希望がある。
――一杯また一杯、安い酒、酔はない酒、淋しい酒!
門司駅の待合室で岔水君を待つ、四時、同道して小倉まで。
大朝支社参観、深切に案内して下さつた、近代風景を断片的に鑑賞することが出来た、或るおでんやで飲んで話して、別れた。
電車で、ほろよひ気分で、暮れ方の鏡子居へとびこむ、客来で、私一人で御馳走になる、さすがにをなごやだけあつて賑やかだ、時々主人公と世間話をしながら、腹いつぱい飲んで食べた、早々ほろ/\になつてぐつたりと寝た、感謝々々。
好い日であつたが、やつぱり私のその日その日は覚めきらない悪夢の断片といはなければなるない。
・朝のひかりへ播いてをいて旅立つ(アメリカポピー会同人に)
・食べるもの食べつくしたる旅に出る(自分自身に!)
  再録
・春風のどこでも死ねるからだであるく(これも自嘲の一句)
  述懐、冬去春来
・かつえずこごえず冬もほぐれた(別)
・戦ひはこれからの大地芽吹きだした
・野中の一本いちはやく芽吹いてゐる
 梅はさかりの、軍需工業のけむり
・たちまち曇り、すぐ晴れて海峡の鴎
  門司駅待合室所見
・仲よく読んでゐるよこからいやな顔がのぞいて
――綿織物よりも絹織物を! これも非常時の国産奨励。
  改作追加一句、峠にて或る日のルンペンと共に
・草の上におべんたう分けて食べて右左

 三月十三日 曇、時雨、若松。

朝早く起きてはならないので困つた(夜ふかしの朝寝があたりまへの社会だから)、こつそり抜けだして散歩、時局柄で朝湯もないので、コツプ酒でも呷る外ない、……不用人間の不用時間を持て余した。……
身辺整理、アメリカ行の小包をこしらへ手紙を書く。
八幡の印象、――中心は何といつても製鉄所の煙突、そして飲食店、職工、何もかもごた/\してゐる。
新聞記事で動かされたもの二つ、――モルガンお雪の帰国と岡田博の母を嘆く言葉。
午後、鏡子君に連れられて、徳訪問、よい湯を頂戴した、そして酒と金との功徳も頂戴した。
四時頃出立(鏡子君の温情に改めて感謝する)、警察署に星城子君を訪ねたが不在、雲平居は帰途立寄ることにして、電車で戸畑へ。
多々桜居で、奥さんのなげきを聴く(多々桜君の病状について)、同情に堪へない、すぐ若松病院へ行く…

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