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其中日記
ごちゅうにっき
副題14 (十三の続)
14 (じゅうさんのつづき)
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「山頭火全集 第九巻」 春陽堂書店
1987(昭和62)年9月25日
入力者小林繁雄
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2010-07-14 / 2014-09-21
長さの目安約 61 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

旅日記


八月二日 晴れて暑い、虹ヶ浜。

午後三時の汽車で徳山へ、白船居で北朗君を待ち合せ、同道して虹ヶ浜へ。
北朗君は一家をあげて連れて来てゐる、にぎやかなことである、そしてうるさいことである(それが生活内容を形づくるのだが)。
いつしよに夕潮を浴びる、海はひろ/″\としてよいなあと思ふ、波に乗つて波のまに/\泳ぐのはうれしい、波のリズム、それが私のリズムとなつてゆれる。
松もよい、松風はむろんよろしい、さく/\踏みありく砂もよい、自然は何でもいつでもよろしいな。
遠慮がないので、また傾け過ぎた、宿のおばあさん――老マダムとでもいはうか――が酒好きで、のんべいの気持が解るのでうれしかつた、二階に一人のんびりと寝せてもらつた。
海、海、波、波、子供、子供、酒、酒、夢、夢!

八月三日 曇、下関。

早くから起きて松原を散歩する、朝の海はことによろしい、同道して、七時の汽車で徳山へ、昨日も今日も応召兵見送でどの駅も混雑してゐる、涙ぐましい風景である。
白船居で昼食をよばれる、酒のことは書くまでもあるまい。
白船君夫婦は幸福だ、円満な家庭とは君らのそれであらう(不幸な家庭とは私のそれであるやうに)。
十二時の列車で九州へ、四時、門司に着いて銀行の岔水君を訪ね、それから局の黎々火君を訪ねる、ビールを飲んで、いつしよに下関へ渡つて別れる、いつものやうに花屋に泊る、夜は地橙孫君を訪ねて話す、ビールやら酒やら泡盛やら飲みすぎて、ふらついてゐるところを検索されてしまつた(彼は新米巡査だつた、手帖が汚したかつたのだらう!)。
何もかも万歳となつて炎天
 出征兵
これが最後の日本の飯を食べてゐる汗
潮風強く出て征く人が旗が

八月四日 晴、緑平居。

朝やうやく解放されて帰宿、おかみさんが気の毒がつてくれる、ほんたうに馬鹿らしい出来事だつた。
十時、関門海峡を渡る、一杯ひつかける、一時緑平居着、腹から安心して御馳走になる、腹も空つてゐたので、奴豆腐を二丁までも頂戴した。
夜はラヂオを聞きレコードを聞かせてもらつた。
長い長いトンネルをぬけて炎天
 廃坑
日ざかりの煙突また煙吐いてゐる
けふは誰か来てくれさうな昼月がある
親船子船すずしくゆれてゆく
 非常時色
古い葉新らしい葉七夕の竹は立て

八月五日 晴、鏡子居。

早起、香春岳を眺める、忘れられない山だ、緑平老のやうに。
十時のバスで飯塚へ、烏峠の眺望はなか/\よい。
伊岐須ではみんなたつしやでほがらかだつた、こゝでも豆腐をたくさんよばれた、健と差向ひで、初孫を寝かせて、愉快なビールを飲んだ、若い人々よ、幸多かれ。
四時のバスで、そして五時の汽車で八幡へ向ふ、何だか寂しくなつて、たへかねて一杯二杯三杯……七時、鏡子居へころげこんだ、そしてまた酒、いつしよに井上さんの宅へ、そしてまたビール、やつと戻つて寝た、弱くなりまし…

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