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旅日記
たびにっき
副題03 昭和十四年
03 しょうわじゅうよねん
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「山頭火全集 第九巻」 春陽堂書店
1987(昭和62)年9月25日
入力者小林繁雄
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2010-07-28 / 2014-09-21
長さの目安約 48 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

道中記


三月卅一日 曇。

夕方になつてやうやく出立、藤井さんに駅まで送つて貰つて。――
春三君の芳志万謝、S屋で一献!
白船居訪問、とめられるのを辞して、待合室で夜明の汽車を待つて広島へ。
春の夜の明日は知らない
かたすみで寝る
句はまづいが真情也。

四月一日 曇、澄太居。

澄太居のよさを満喫する、澄太君には大人の風格がある、私は友人として澄太君をめぐまれてゐることを感謝する、考へて見ると、私のやうなぐうたらに澄太君のやうな人物が配せられたといふ事実はまことに意義深遠なものがあると思ふ。
私は友達にさゝへられて今日まで生きて来た、ありがたいことではないか、私は低頭し合掌して私の幸福を祝福せずにはゐられない、澄太居の前にはよい柊がある、といふわけで柊屋といふ。
朝の鏡にうつりて花の大きく白く
旅の或る日の鼻毛ぬくことも

四月二日 雨、仏通寺(豊田郡高坂村)。

澄太君に導かれて仏通寺へ拝登する。
山声水声雨声、しづかにもしづかなるかな、幸にして山崎益道老師在院、お目にかゝることが出来た。
精進料理をいたゞきつゝ、対談なんと六時間、隠寮はきよらかにしてあかるし。
杉本中佐の話は襟を正さしむるものがあつた、夜が更けたので泊めてもらつた、澄太君はやすらかな寝息で睡れているのに、私はいつまでも眠れなかつた、ぢつとして裏山で啼く梟の声を聴いてゐた、ここにも私の修業未熟があらはれてゐる、恥づべし。
  仏通寺(許山一宿)
・あけはなつや満山のみどり
 水音の若竹のそよがず
・山のみどりのふか/″\雲がながれつゝ
・塔をかすめてながるゝ雲のちぎれては
・ほんにお山はしづかなふくろう

四月三日 曇――晴れさうな、尾ノ道にて。

朝早くお暇乞して本郷へ。
朝御飯はおいしかつた、道々の風景もよかつた。
澄太君は広島へ、私は三原へ。
やうやく黙壺居をたづねあてたが誰も不在(黙壺君の周囲を何か蔽うてゐるやうな気がする、どうか私の勘のあやまりであるやうに)。
私はいろ/\考へたが、船で広島へひきかへすことにして汽車で尾道へ。
淡々居を訪ふ、在宅、さつそく一杯よばれる、それからいつしよに――坊ちやんも連れて――市中散歩、別れて私は一人で中学校に阿弥坊君寒太君を訪ねて逢へた、しばらく話し、阿弥坊君の宅で夕飯の御馳走になつた、……どうしても旅費が足りないので、淡々君を電話で呼出し、或る家に泊つた、その家がよくなかつた、昨日のよさがまつたく今日のよくなさになつてしまつた、淡々君よ、すまなかつた、すまなかつた。
淡々居には生れたばかりの赤ン坊がゐた、阿弥坊居では奥さんが産むばかりの前で寝てゐられた、とにかく、めでたしめでたし。
  すこし寝忘れのてふてふいそぐ
 ・春の服着て春風吹きます
水の誘惑、死の誘惑
一切時一切事

四月四日 曇、澄太居、晴。

朝の汽船で帰つて来た、心中の…

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