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地熱
じねつ
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「三好十郎の仕事 第一巻」 學藝書林
1968(昭和43)年7月1日
初出「中央公論」1937(昭和12)年 6月号
入力者伊藤時也
校正者伊藤時也、及川 雅
公開 / 更新2010-05-01 / 2014-09-21
長さの目安約 90 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

1 炭坑町の丘

(開幕前に、上手から下手奥へ列車が通過する轟然たる響が近づき、遠ざかつて行く。開幕後も音は残る。
町はづれの丘。上手が斜めに切通しになつてゐて、私設鉄道の線路の一部。線路に添つて街道。その間に木柵。――炭坑地特有の、何から何まで黒い〔風景〕。晴れた夕陽の空。遠い山脈。秋。
切通しを見おろす丘の上に此方を向いて腰をおろし、遠くに視線をやつているお香代。胸の辺で何かしてゐる。
……間。
近づいて来るトロツコの音と元気一杯の男声二人の唄声。
(木挽歌)
『やーれ土方稼業と、コラ空飛ぶ鳥は、どこのいづくで果てるやら、チートコパートコ』
線路に現れて来るトロツコを押してゐる二人の工夫。トロツコにはトンネル工事の材料が積んである)

辰造 おゝ、此の辺でチヨイと一服して行かうぜ。
金助 だつて現場ぢや、みんな待つてゐるよ。
辰造 いいつて事よ、どうせ今日も又残業だ。たまには骨休めもさしてやらなきや、たまるもんか。俺達が行くのが遅くなりや、そいだけ休んで居れるんだ。ハハハ、気を利かすなあ、かう言ふ所だ。
金助 しかし監督が又怒鳴るぜ。
辰造 怒鳴らしときやいいぢや無えか。あの野郎、こちとら臨時工夫をまるで人間扱ひにしねえんだからな、ナメた畜生だよ。
金助 だけんど、あの浸水のひどさぢや、責任持つて現場に出てりや、イライラもするよ。あいだけの人間が夜の九時迄働いて、一日にやつとコンクリー流し込みが一尺と進まねえんだからな。
辰造 そんな事俺達が知るか。会社で無理にもあすこにトンネル通さうと言ふんだから、会社の責任だい。(先刻から煙草をくはへて、何度もマツチをすつてゐる)チツ! マツチまでが附きくさらねえ!
金助 (自分のマツチを出して)おいよ、此処にあるぜ(するが附かぬ)こいつも駄目だ。
辰造 一日ビシヨ濡れになつてゐて、そいで煙草も吸へなきや、世話あ無えや。こん畜生! (マツチ箱を丘の方へビユツと投げる。それが香代の肩に当る)
金助 (マツチを見送つた眼で香代に気がつく)あ、お香代さん!
香代 ……? (夢を見てゐるやうな眼附)
辰造 香代ちやんぢや無えか? どうしたんだ、こんな所で?
香代 ……どうしたの?
金助 お前こそどうしたんだ?
辰造 さては、逢引と来たな。色男を待つてゐるんだらう?
香代 (やつと我れに返り、周囲を見廻す。それから二人を見てニツコリし、初めて元気な眼の色)まだ仕事なの?
辰造 御覧の通りでございますよ、へん。それをだ、そんな所で色男を待ちの、よろしくやらうと言ふのは、俺達に当てつけて見せようと言ふんだな。少し殺生だらうぜ!
金助 ホントカ、おい?
香代 さう、まあその辺だわね。
辰造 なぐるぜ、畜生!(三人笑ふ)おゝ、香代ちやん、お前マツチ無えか?
香代 マツチ? さうね……(袂を捜して)はい、投げるよ。
辰造 ありがてえ! …

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