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しろ
原題DAS SCHLOSS
著者
翻訳者原田 義人
文字遣い新字新仮名
底本 「世界文学大系58 カフカ」 筑摩書房
1960(昭和35)年4月10日
入力者kompass
校正者米田
公開 / 更新2012-01-18 / 2016-02-22
長さの目安約 735 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

第一章


 Kが到着したのは、晩遅くであった。村は深い雪のなかに横たわっていた。城の山は全然見えず、霧と闇とが山を取り巻いていて、大きな城のありかを示すほんの微かな光さえも射していなかった。Kは長いあいだ、国道から村へ通じる木橋の上にたたずみ、うつろに見える高みを見上げていた。
 それから彼は、宿を探して歩いた。旅館ではまだ人びとがおきていて、亭主は泊める部屋をもってはいなかったが、この遅い客に見舞われてあわててしまい、Kを食堂の藁ぶとんの上に寝かせようとした。Kはそれを承知した。二、三人の農夫がまだビールを飲んでいたが、Kはだれとも話したくなかったので、自分で屋根裏から藁ぶとんをもってきて、ストーブのそばで横になった。部屋は暖かく、農夫たちは静かだった。Kは疲れた眼で彼らの様子をうかがっていたが、やがて眠りこんだ。
 だが、それからすぐ起こされてしまった。町方の身なりをした俳優のような顔の、眼が細く眉の濃い一人の若い男が、亭主とともにKのそばに立っていた。農夫たちもまだ残っていて、二、三の者はもっとよくながめて話を聞こうと、椅子をめぐらしている。若い男は、Kを起こしたことをひどくていねいにわびて、自分は城の執事の息子だと名のり、それからいうのだった。
「この村は城の領地です。ここに住んだり泊ったりする者は、いわば城に住んだり泊ったりすることになります。だれでも、伯爵の許可なしにはそういうことは許されません。ところが、あなたはそういう許可をおもちでない。あるいは少なくともその許可をお見せになりませんでした」
 Kは身体を半分起こして、髪の毛をきちんと整え、その人びとを下から見上げて、いった。
「どういう村に私は迷いこんだのですか? いったい、ここは城なんですか?」
「そうですとも」と、若い男はゆっくりいったが、そこここにKをいぶかって頭を振る者もいた。「ウェストウェスト伯爵様の城なのです」
「それで、宿泊の許可がいるというのですね?」と、Kはたずねたが、相手のさきほどの通告がひょっとすると夢であったのではないか、とたしかめでもするかのようであった。
「許可がなければいけません」という答えだった。若い男が腕をのばし、亭主と客たちとに次のようにたずねているのには、Kに対するひどい嘲笑が含まれていた。
「それとも、許可はいらないとでもいうのかな?」
「それなら、私も許可をもらってこなければならないのでしょうね」と、Kはあくびをしながらいって、起き上がろうとするかのように、かけぶとんを押しやった。
「それでいったいだれの許可をもらおうというんですか?」と、若い男がきく。
「伯爵様のですよ」と、Kはいった。「ほかにはもらいようがないでしょう」
「こんな真夜中に伯爵様の許可をもらってくるんですって?」と、若い男は叫び、一歩あとしざりした。
「できないというのですか?」…

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