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「世界文学大系58 カフカ」解説
せかいぶんがくたいけい58 カフカかいせつ
作品ID49920
著者原田 義人
文字遣い新字新仮名
底本 「世界文学大系58 カフカ」 筑摩書房
1960(昭和35)年4月10日
入力者kompass
校正者米田
公開 / 更新2011-03-14 / 2016-02-22
長さの目安約 33 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 カフカがプルースト、ジョイス、フォークナーなどと並んで二十世紀のもっとも重要な作家の一人として考えられるようになったのは、彼の死後二十年余を経た第二次大戦後のことであるといってよい。今、たとえば一九三〇年ころに出版されて十万部を超える部数を出した詳細なドイツ現代文学史を開いてみると、そのなかでカフカについて書かれているのはわずか十数行にすぎない。また、三六年にアメリカで刊行されたあるドイツ文学史を見ると、そこにはカフカの名前をまったく見出すことができない。元来、カフカ自身は生前わずか数冊の小品・短編を発表しただけであり、遺言はいっさいの遺稿の破棄を要求したのであった。その遺志に反して、三長編遺作をはじめとしていっさいの断片を整理刊行したのは、彼の親友であった作家マクス・ブロートの功績であり、その熱意と傾倒とがなかったならば、とうてい今日のカフカ像は結ばれずに終ったにちがいない。ブロートは彼の『フランツ・カフカ伝』(増補版)において、カフカの死後、遺作を出版してくれる大出版社を見出すことがむずかしかった、と述懐している。そこで、それらの書巻に対する著名作家の関心を喚起しようとしたところ、ゲルハルト・ハウプトマンは「残念ながらカフカという名前はまだ聞いたことがありません」と答えたという。
 今日、カフカに関する文献はおびただしい数に達している。そして、それだけのカフカ解釈がある。それを要領よくまとめることはとうてい不可能である。しかし、カフカ解釈の一つの大きな柱は、いうまでもなくブロートのものである。ブロートは熱狂的なユダヤ主義者であり、その立場からのカフカ解釈は一面的であるとして多くの人びとから激しい攻撃を浴びた。彼は『カフカの信仰と思想』という著者の序文において、カフカの正しい解釈のためには、アフォリズムにおけるカフカと、物語作品(長・短編)におけるカフカと、この二つの流れを区別しなければならない、という。彼によれば、アフォリズムのカフカは人間のなかの「破壊されないもの」を認識し、世界の形而上的な核心に対して積極的で信仰的な関係をもっている。この面ではカフカは、人類に対していうべき積極的な言葉、一つの信仰、各人の個人的生活を変えるようにというきびしい要求、を述べているのであり、トルストイの思想と密接な関係をもっている。一方、小説および物語のカフカは、恐れと孤独感とのうちでさまよっている人間、つまり、アフォリズムや日記のなかで語っているあの「破壊されないもの」を失った人間、信仰において確信をもてなくなり、錯乱している人間、を示している。ここでは、アフォリズムに見られるような積極的な言葉を聞かないで正しい道を離れ去るときに現われる、恐るべき処罰を描いている。この両面を理解しなければ、カフカを理解することができない、というのである。ここで、二つの問題が出てくる。…

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