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かなしき女王
かなしきじょおう
著者
翻訳者松村 みね子
文字遣い新字新仮名
底本 「かなしき女王 ケルト幻想作品集」 ちくま文庫、筑摩書房
2005(平成17)年11月10日
入力者門田裕志
校正者匿名
公開 / 更新2012-10-16 / 2014-09-16
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 ミストの島スケエの城の高い壁のかげに二人の男が縛られて倒れていた。
 一人は「はげ」と綽名されたウルリック、一人は琴手コンラであった。多くの櫓船が海峡に沈んだ時、ゲエルもゴールも血に赤い波に沈んで、ただこの二人だけが生き残った。
 長いあいだ二人は波の上に一本の同じ檣の上に揺られていた――それは「長髪」と綽名されたスヴェンが一艘ごとに二十人を乗り組ました櫓船二十を従えて北の島国から渡って来た「死鴉」の檣であった。
「無言」と綽名されたファルカは一艘に十人を乗り組ました四十の櫓船を以て彼に当った。
 彼等は日が南にある頃から西に低くなるまで戦った。もう其時は「死鴉」と「掃泡」と二艘だけになった。この戦のあいだ、ウルリックはスヴェンの側に坐って死の歌と剣の歌をうたっていた。コンラはファルカの傍に在って勝利の威勢のよい歌をうたっていた。
 多くの船が海中に血まみれの混乱の中に出会った時、槍は暴風の森の大枝小枝の如く上下した、人々の髪は血に真赤な顔と狂猛な眼の上にまっ黒くよじれて垂れていた、スヴェンは敵の「掃泡」に飛び乗って、自分に向って槍を突き出した槍手の首をちょん切った、首は海に墜ち込んで、首のない人間が中気のように顫えて的のない槍をゆらゆらと動かしていた。
 しかしこの働き中にスヴェンはよろけた、ファルカは彼に槍を突き通した。槍はスヴェンを檣に突き刺した。その時一本の矢が海を渡って来てスヴェンの眼に当った、彼はそれきり眼が見えなくなった。「掃泡」が沈み、それに引かれて「死鴉」が沈み、二人の王は出会った、しかしファルカはもう其時はあっちこっちと揺り上げられる重い死魚のようであった、スヴェンはその死体を自分の愛していたガンヒルドの死体かと思って、それに接吻しようとしたが、彼を檣にくぎづけにした槍と七本の矢のためにそれも出来なかった。
 月がのぼった時、水は真白に凪いでいた。海の中ほどを大きな影が北に向いて動いて行った、それは旅に行く青魚の数万の群であった。
「はげ」のウルリックが檣から沈みかけた時、琴手コンラはウルリックの髪の毛を持って引上げて息をつかせてやった、それでウルリックは生きていた。
 二本の槍がそば近く浮いて来ても、どちらもそれを取ろうともしなかった。暫らくしてコンラは口をきいた。「誰だか私の足をひっぱっている、君の方の死んだ人間が私を沈めようとしているのだ」と彼がいった。ウルリックは長い息をついて、心臓を強くした、それから一本の槍をつかんで、それを下に向けて突き込んだ、槍は死人を突いた、その死人の髪がコンラの足にからまりついていたのだった、死人は沈んで行った。
 二人は叫び声を聞いた時、船が又やって来たのかと思った。スヴェンの別手の軍かそれともファルカのかと思った。やがて二人は海から引き上げられて、星を見つめながら倒れて、それから後は知らなかった、…

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