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剣のうた
つるぎのうた
作品ID49929
著者マクラウド フィオナ
翻訳者松村 みね子
文字遣い新字新仮名
底本 「かなしき女王 ケルト幻想作品集」 ちくま文庫、筑摩書房
2005(平成17)年11月10日
入力者門田裕志
校正者匿名
公開 / 更新2012-09-20 / 2014-09-16
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ロックリンの海賊どもがヘブリッド島の鴉に餌じきを与えた時から三年目の、しろき六月とよばれる月に、夏の航海者たちは又もスカイの海峡を下って来た。
 東風が山からあたらしく吹いて来た、明方と日の出ごろとのあいだにその風は向きを変えてクウフリンの岩の峯に触れて冷されて、やがて西北に向いて、風あしの白い泡をうしろから太陽のきらめきに捕えさせながら、飛んで行った。
「スヴァルト・アルフ」に乗っていた海賊たちはそれを見て笑った。水のしぶきは大船のまがりくねった黒い船首から飛び散って、船の跡はまぶしい光の中に躍った――その人たちが好んでいた海のクリームを今見ることができた。
 彼等は丈たかく美しい男たちだった。髪は黄ろいのも金いろのも、赤いのもあったが、それを編んでいる人もあり、あるいは、四月の栗の樹のつぼみが一時に咲き乱れたように捲毛のままで垂らしている人もあり、あるいは、風と潮との渦に巻かれた海草のように乱れたままで肩に散らばしているのもあった。彼等の青い眼はそのうしろに白熱の焔の炬光があるように輝いて、その輝きは、その人たちの頭を満すものが家であるか血であるかによって、優しくも激しくもなった。
「スヴァルト・アルフ」は、「しろき」オラウスの鴉の旗の下にロックリンを船出して来た三十の櫓船の一隊の先頭であった。海賊どもは好い旅をして来た。うたうような南風は彼等をファロオ島に吹き送った、そこで「片手」のマグナスから元気をつけられた、そして西の島々の案内にくわしくて海賊王たちの案内にたびたび使われた三人の男をやとい上げた。
 彼等はマグナス領から蜜糖水と酒と牝牛の肉を沢山に積み入れて船出した、帰りにはその代償として金の頸鎖や胸かざりやいろいろな貴重品も年少の奴隷たちも黒い髪と黄ろい髪の女たちも島ぐにの王たちの宝石の飾りある刀剣も思いのままに与えることが出来ると思って海賊たちは快く笑った。
 東北のつめたい曇り風が彼等の船をスザランドの岬にまっすぐに吹きつけた。船がラッスの岬をまわって山々の影の下に来た真ひるとき彼等はよろこびの歌をうたった。つぎの日の明方は空もあかく、みんなの剣も赤かった。その日彼等がうたったのは「剣のうた」であった、血のながれる時それほどふさわしい歌はなかった。トリドンの髪のくろい人たちは何の備えもなく破られた。その後七日間というもの、草原に硬くなって倒れている素はだかの屍体のそばの赤い血の池で鴉どもは飽きるほど飲んだ。焼かれた家々の火は雨が来るまでくすぶり烟っていた、一日二夜を経て荒野に逃げうせていた老女たちはしのび泣きながら帰って来た。ひと妻や少女たちは船にはこび去られた、「夏の島」に向い合った人げない海岸で九日のあいだ其の女たちの涙や笑いや無愛想な怒りや狂わしい元気や悲しいあきらめが金髪の男たちによろこびを与えた。九日目に彼等は南に運ばれた。
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