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女王スカァアの笑い
じょおうスカァアのわらい
著者
翻訳者松村 みね子
文字遣い新字新仮名
底本 「かなしき女王 ケルト幻想作品集」 ちくま文庫、筑摩書房
2005(平成17)年11月10日
入力者門田裕志
校正者匿名
公開 / 更新2012-06-25 / 2014-09-16
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 強い女王スカァアが剣持つ手の掌に死の影を握って支配していたスカイの島をクウフリンが立ち去った時、そこには彼の美を惜しむなげきがあった。クウフリンはアルスタアの王コノール・マック・ネサの招きに依ってアイルランドに帰ったのであった。そのときレッドブランチの党派は血に浸っていた。予言する人たちの眼には恐しい事が起って拡がって行くのが見えていた。
 クウフリンは年齢からいえばまだ少年であった、しかしスカイに来たとき少年であった彼は丈夫となってその地を去った。女王もほかの女たちもクウフリンより美しい人を見たことがなかった。彼は松の若木のようにたけ高く柔軟で、皮膚は女の胸のように白く、眼は烈しく輝く青色で、その中に太陽の光のような白い光が宿っていた。少し身を屈めて弓に矢をつがえ、妻呼ぶ鹿の声を聞きながら草原に立つ時、或はまた、木に倚りながら、鷹狩の夢でもなく狼狩の夢でもなく、まだ見たことのない女の夢を見ている時、或はまた砦に剣を振り槍をしごいて勝負する時、競争場に戦車を走らせる時――その時、いつも彼の美を見ている人目があった。そして彼を美の神アンガス・オォグ自身かと疑う者さえあった。クウフリンの身辺には光があった、ちょうど日の入り方一時間前ぐらいの山々の夕ばえのような光であった。彼の髪はアンガスや金髪の神たちと同じ色であった。頭に近い辺は金を射出す土の色の茶色、中ほどは火焔のような赤さ、火の色の黄金の霧に散らばる髪の末の方は風ふく日の陽の光のように黄いろかった。
 しかしクウフリンはスカイの島で一人の女をも愛さなかった。また一人の女もあらわにクウフリンを愛し得なかった。それはスカァアがクウフリンを慕っていて、誰にもせよ女王の邪魔するのは自分の身に死の衣を着るようなものであったからだ。女王はレルグの子クウフリンのためにいつも輝かしい顔を見せていた。クウフリンの光まぶしい顔を見る時、彼女の眼のなかには暴風の暗いくもりは見えなかった。彼女は悦んで一人の女を殺した。それはクウフリンが些細の事のためにその侍女に小言をいった為であった。また或時女王が海賊の三人の捕虜の美しい男ぶりを愛でてその生命を宥してやったことがあった。クウフリンは何も云わず真面目な様子をして彼等を眺めていた。それを見た女王はその捕虜の一人一人の胸に剣を刺し通した、そして赤いしずくの落ちるその刃を愛の花としてクウフリンに贈ったこともあった。
 しかしクウフリンは夢見る人であった、彼は自分の夢に見るものを愛していた、その夢の中の女はスカァアではなかった、又このさびしい海岸に打ち上げられた人たちや負けいくさの終りに其処に船を乗り上げた人たちのためにミストの島を恐しい場所とした彼女の部下の女軍の女たちの一人でもなかった。
 スカァアは自分の甲斐ないのぞみを深く思いつめていた。或る風もないたそがれ時であった、彼女はクウ…

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