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約束
やくそく
著者
翻訳者松村 みね子
文字遣い新字新仮名
底本 「かなしき女王 ケルト幻想作品集」 ちくま文庫、筑摩書房
2005(平成17)年11月10日
入力者門田裕志
校正者匿名
公開 / 更新2012-08-11 / 2014-09-16
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 モイルの荒々しい水に洗われているアルバンの南方の王であったケリルが寂しい土地にたった一疋の猟犬をつれて一人で猟している時のことであった、ケリルはその時、同じ生命を持っている二人の生命は互に触れて一つになることがあるという事を見出した。
 ケリルは羊歯のなかで牝鹿の足跡らしいのを見つけて身を屈めてそれを見ようとしたが、その時、猟犬はいきなり飛び退いてもと来た路を飛ぶように逃げて行ってしまった。
 ケリルは驚いて犬の後を見ていたが、やがて自分の倚りかかっていた樫の樹から垂れ下がっていたミッスルトオのほそ枝を払いのけた。そのとき足の下で物音がした。見ると、ほそ長い秦皮の枝が二つに割れていた、そして彼の足がそこに横になって眠っていた人の真しろい手を踏んでいたのだった。
 その人は若かった。緑色の衣を着けて、頸のまわりには黄金の鎖をまき、胸かざりや頸かざりや青色の石の足かざりもつけていた。彼は立ち上がったが背が高くて若木のようにほっそりして、顔は若々しく少女の顔のようにすべこく、髪は日光に照らされた生木綿のように白っぽい黄色であった。
 ケリルはその人を見ていた。
「お目にかかるのは嬉しいが、まだあなたの顔は見たことがありません」ケリルが言った。
「私はあなたの顔を知っています、ケリル・マック・ケリル。あなたは私にこんな侮辱を与えたから、私もあなたの王位に疵をつけます」
「どんな疵をつけますか、『迅き槍』のケリルに疵をつけようとするあなたは誰ですか」
「私は仙界の王キイヴァンです。私はどんな災禍でもあなたに与えることが出来ます。しかし、私は自分に対して悪意を持っていないものには決して災禍を与えないという誓いをしているのです」
「死や恥辱でなく、王者らしい礼ある相談ならばいつでも辞さないのが私の誓いです」
「けっこうです。あなたは私を足で踏んで無礼をしました。私はあなたがた人間界のものではないのです。あなたの足で踏まれたことは一年のあいだ私の傷痕になります。こんな事にしましょう。一年のあいだ私はあなたの姿になり、あなたが私の姿になる、私はあなたのケリル城にゆく、あなたは私の国にゆく、そして誰ひとりこれを知ってはなりません、あなたの妃も私の同族のものも、あなたの犬も私の犬も、あなたの剣も私の剣も、槍も、酒のむ酒杯も、琴も太鼓も、これを知ってはなりません」
「それで、何かこの事で私の恐れなければならないことがありますか」
「私は敵を持っています、フェルガルというものです。月の昇る時刻にはフェルガルに気をつけて下さい。そして私もあなたの代りに何か恐るべきことがありましょうか」
「私の愛人ドルカの愛を恐れて下さい」
 キイヴァンは笑った。
「それは何処にもあることです、星に住む竜のなかにも、地に住む虫けらのなかにも」キイヴァンが言った。
「蜜の言葉のキイヴァンよ、これがただ一…

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