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食道楽
しょくどうらく
副題春の巻
はるのまき
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「食道楽(上)」 岩波文庫、岩波書店
2005(平成17)年7月15日
初出「報知新聞」1903(明治36)年1月3日~3月30日
入力者砂場清隆
校正者川山隆
公開 / 更新2010-09-07 / 2014-09-21
長さの目安約 324 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

緒言

 小説なお食品のごとし。味佳なるも滋養分なきものあり、味淡なるも滋養分饒きものあり、余は常に後者を執りていささか世人に益せん事を想う。然れども小説中に料理法を点綴するはその一致せざること懐石料理に牛豚の肉を盛るごとし。厨人の労苦尋常に超えて口にするもの味を感ぜざるべし。ただ世間の食道楽者流酢豆腐を嗜み塩辛を嘗むるの物好あらばまた余が小説の新味を喜ぶものあらん。食物の滋養分は能くこれを消化して而て吸収せざれば人体の用を成さず。知らず余が小説よく読者に消化吸収せらるるや否や。

明治三十六年五月
於小田原 弦斎識
[#改丁]

[#ページの左右中央]


春の巻



[#改ページ]

[#大隈伯爵邸臺所の畫の図入る]
[#改ページ]

○大隈伯爵家の台所(口画参看)

 巻頭の口画に掲げたるは現今上流社会台所の模範と称せらるる牛込早稲田大隈伯爵家の台所にして山本松谷氏が健腕を以て詳密に実写せし真景なり。台所は昨年の新築に成り、主人公の伯爵が和洋の料理に適用せしめんと最も苦心せられし新考案の設備にてその広さ二十五坪、半は板敷半はセメントの土間にして天井におよそ四坪の硝子明取りあり。極めて清潔なると器具配置の整頓せると立働きの便利なると鼠の竄入せざると全体の衛生的なるとはこの台所の特長なり。口画を披く者は土間の中央に一大ストーブの据られたるを見ん。これ英国より取寄せられたる瓦斯ストーブにて高さ四尺長さ五尺幅弐尺あり、この価弐百五十円なりという。ストーブの傍に大小の大釜両個あり。釜の此方に厨人土間に立ちて壺を棚に載せ、厨人の前方板にて囲いたる中に瓦斯竈三基を置く。中央の置棚に野菜類の堆く籠に盛られたるは同邸の一名物と称せらるる温室仕立の野菜なり。三月に瓜あり、四月に茄子あり、根葉果茎一として食卓の珍ならざるはなし。下働きの女中、給仕役の少女、各その職を執りて事に当る。人も美しく、四辺も清潔なり。この台所に入る者は先ず眉目に明快なるを覚ゆべし。
 この台所にては毎日平均五十人前以上の食事を調う。百人二百人の賓客ありても千人二千人の立食を作るも皆なここにて事足るなり。伯爵家にては大概各日位に西洋料理を調えらる。和洋の料理、この設備に拠れば手に応じて成り、また何の不便不足を感ずる所なし。この台所のかくまで便宜に適したるはストーブにも竈にも瓦斯を用いたるがためなり。瓦斯なるために薪炭の置場を要せず、烟突を要せず、鍋釜の底の煤に汚れる憂もなく、急を要する時もマッチ一本にて自在の火力を得べし。物を炙り物を煮るも火力平均するがため少しくその使用法に馴るれば仕損ずる気支なし。費用は薪炭の時代に一日壱円五十一銭を要せしが今は瓦斯代九十五銭を要するのみ。即ち一日に五十六銭の利あり。然れども瓦斯の使用は軽便と清潔と人の手数とを省く点において費用の減少よりもなお大なる利益あり。
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