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世界怪談名作集
せかいかいだんめいさくしゅう
副題18 牡丹灯記
18 ぼたんとうき
著者
翻訳者岡本 綺堂
文字遣い新字新仮名
底本 「世界怪談名作集 下」 河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年9月4日
入力者門田裕志
校正者小林繁雄
公開 / 更新2003-10-05 / 2014-09-18
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 元の末には天下大いに乱れて、一時は群雄割拠の時代を現出したが、そのうちで方谷孫というのは浙東の地方を占領していた。彼は毎年正月十五日から五日のあいだは、明州府の城内に元霄(陰暦正月十五日の夜)燈をかけつらねて、諸人に見物を許すことにしていたので、その宵よいの賑わいはひと通りでなかった。
 元の至正二十年の正月である。鎮明嶺の下に住んでいる喬生という男は、年がまだ若いのにさきごろその妻を喪って、男やもめの心さびしく、この元霄の夜にも燈籠見物に出る気もなく、わが家の門にたたずんで、むなしく往来の人びとを見送っているばかりであった。十五日の夜も三更(真夜中の十二時から二時間)を過ぎて、人影もようやく稀になったころ、髪を両輪に結んだ召使ふうの小女が双頭の牡丹燈をかかげてさきに立ち、ひとりの女を案内して来た。女は年のころ十七、八で翠袖紅裙の衣を着て、いかにも柔婉な姿で、西をさして徐かに過ぎ去った。
 喬生は月のひかりで窺うと、女はまことに国色(国内随一の美人)ともいうべき美人であるので、神魂飄蕩、われにもあらず浮かれ出して、そのあとを追ってゆくと、女もやがてそれを覚ったらしく、振り返ってほほえんだ。
「別にお約束をしたわけでもないのに、ここでお目にかかるとは、何かのご縁でございましょうね」
 それを機に、喬生は走り寄って丁寧に敬礼した。
「わたしの住居はすぐそこです。ちょっとお立ち寄りくださいますまいか」
 女は別に拒む色もなく、小女を呼び返して、喬生の家へ戻って来た。初対面ながら甚だうちとけて、女は自分の身の上を明かした。
「わたくしの姓は符、字は麗卿、名は淑芳と申しまして、かつて奉化州の判(高官が低い官を兼ねる)を勤めておりました者の娘でございますが、父は先年この世を去りまして、家も次第に衰え、ほかに兄弟もなく、親戚も少ないので、この金蓮とただふたりで月湖の西に仮住居をいたしております」
 今夜は泊まってゆけと勧めると、女をそれをも拒まないで、ついにその一夜を喬生の家に明かすことになった。それらのことはくわしく言うまでもない、「はなはだ歓愛を極む」と書いてある。夜のあけるころ、女はいったん別れて立ち去ったが、日が暮れると再び来た。金蓮という小女がいつも牡丹燈をかかげて案内して来るのであった。
 こういうことが半月ほども続くうちに、喬生のとなりに住む老翁が少しく疑いを起こして、壁に小さい穴をあけてそっと覗いていると、紅や白粉を塗った一つの骸骨が喬生と並んで、ともしびの下に睦まじそうにささやいていた。それを見て大いに驚いて、老翁は翌朝すぐに喬生を詮議すると、最初は堅く秘して言わなかったが、老翁に嚇されてさすがに薄気味悪くなったと見えて、彼はいっさいの秘密を残らず白状した。
「それでは念のために調べてみなさい」と、老翁は注意した。「あの女たちが月湖の西に住んでいるとい…

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