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美味放談
びみほうだん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「魯山人の美食手帖」 グルメ文庫、角川春樹事務所
2008(平成20)年4月18日
初出「星岡」1935(昭和10)年
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2010-01-08 / 2014-09-21
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

       上京の頃

 僕が初めて東京に出て来た年少時に、京橋のビアホールになにか祝いごとがあってね。ビールが半額なんだ。飲んでやろうと思って行ったが、まず洋食を食おうと思ってね。ところがその時は洋食のことはなにも分らん。ビフテキといっても、それが野菜だか肉だか飲物だか分らん。どうしようかと思って、そこで考えたね。隣のテーブルで命じたものの名前を覚えておいて、その品物が来るのを一生懸命我慢して待っておった。ところが持って来たものがもしかして、前に命じたものを持って来たんじゃないかしらなんて心配してね、用意周到なことだ。とにかくビフテキを注文したがもしかして変なものを持って来たらば逃げ出そうと思っていたら、隣のと同じものを持って来たので安心したよ。聞いてみたらこんどはフライだ。そこでこっちもフライを注文した。西洋料理の名前を二つ覚えたよ。なにしろ他人の注文した料理を見てから注文したんだからね。……その洋食を食った頃は京橋のカフェーなんど古風な物だったよ。新橋の芸妓を呼んでサービスさせたものでね。その頃「伊太利」とかいう洋食屋があって、イタリア風の「うどん」を自慢にしている料理人があった。「ゑり治」の横辺りだったか、三共の横辺りだったかにあった。二百種類くらいマカロニを拵えるというのでね。僕は毎日違ったのを作らせては毎日食ったもんだ。食うことにかけて、いかに研究心が盛んだったか分るだろう。いい機会だと思って毎日行ってみたわけさ。
 遂に向こうで困っちゃってね。そんなに毎日は出来ませんて、金は先へ預けておくといっていつでも、二、三十円くらい置いといたが、向こうの方で困っちゃったね。十七、八年前になる。
 その頃のこと、去年の暮れか今年の春か、ライスカレーで特色を見せた「南洋」のカフェーの女主人が「わたしの顔だといって先生がスケッチしてくださったのを、今でもわたしは持っています。お閑の時がございましたら一度見て頂けませんか」なんていって来たが。その手紙も遂になくして見あたらなくしてしまった。

       料理屋の経営

 日本人の食う料理はみな日本料理だよ。うなぎ屋でも、寿司屋でも、何屋でもそれは日本料理だ。しかし日本料理が十種あるとしてだね、その中の一つだけを知っているというのが、今の日本料理人だ。後の九つは知らんでもすましている。そういうことを指導したり取り扱ったりする人間がほとんどいないんだね。星岡の取り扱うものは日本人の食うすべてのものだ。だから日本料理といえる。西洋料理や、中国料理にはまたおのずからその道がある。それをやるとすればまた僕の気に入るような設備をしなければならない。とにかく、世間並みのこととは根本的に見解が異なる。金儲けの一途にしているのではないんだから、ただその柄を同じうするだけだ。世間のは料理人が労働者で主人が資本家で、それで利益の…

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