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鮪の茶漬け
まぐろのちゃづけ |
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作品ID | 50003 |
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著者 | 北大路 魯山人 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「魯山人の食卓」 グルメ文庫、角川春樹事務所 2004(平成16)年10月18日 |
初出 | 「星岡」1932(昭和7)年 |
入力者 | 門田裕志 |
校正者 | 仙酔ゑびす |
公開 / 更新 | 2010-02-02 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 5 ページ(500字/頁で計算) |
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たい茶漬けは世間に流布され、その看板をかけている料理屋さえ出来てきた。関西ではもちろんのこと、東京でも近来よく見かけるようになった。また、家庭にも侵入して、実際に試みられるようにさえなっている。それなのに、たいより簡単で、美味いまぐろの茶漬けが用いられていないのは、ふしぎな気がする。
たいは関西がよく、まぐろは東京がいい。
その意味からいっても、東京は、たい茶漬けよりまぐろの茶漬けを用いてしかるべきであろう。
東京に、もし京阪のような食道楽が発達していたら、おそらく、今日までまぐろの茶漬けを見逃してはいなかったであろう。そういう私も、まぐろの茶漬けは京都で覚えたもので、東京人から教わったものではなかった。今後の東京人は、たい茶漬けなんて関西の模倣をやらないで、堂々と江戸前のまぐろをもって、たい茶漬けに対すべきである。東京には関西のような、美味なたいがないから、なおさらである。
茶漬けの御飯
御飯の炊き方がやわらかく、ベタベタするようなのは一番いけない。すしの飯の程度がいい。炊きたての御飯ではいけない。生暖かにさめた程度がいい。茶漬けにもよりけりだが、魚の茶漬けには冷飯は絶対にいけない。
お茶の出し方
かける茶は番茶では美味くない。煎茶にかぎる。煎茶の香味と苦味とが入用である。少し濃い目の茶をかけると、調和がとれる。茶が薄くては不味い。だから、粉茶の上等がいいというわけになる。
粉茶のだし方は人も知るように、粉茶専用の小さなざるがある。これはすし屋で使っているものである。それで、すし屋の用いるように、大目ざるに一杯程度入れて水をさす。なぜなら、粉茶は茶の残りを集めたいわば茶のくずであるから、埃などがまじっていよう。これを洗滌する意味で、ざるの中に入れた茶に水をさすと、乳白色に水がよごれてこぼれてくる。これを捨て、ざるの中の粉茶に熱湯を注ぐ。
この場合、熱湯を少しずつ注げば、茶は濃くなり、ざあっと一気にお湯を注げば、茶は薄くなる。熱湯の注ぎ方によって、濃淡自在にお茶は加減できる。
お茶漬けには、熱湯を少しずつ注いだ濃い目のものを用いるのがよい。しかし、抹茶や煎茶にしても、最上のものを用いることが秘訣だ。茶が悪いと、茶漬けの中に、なにが入っていようが駄目である。
要するに、茶がよくなければ茶漬けの意義がない。
茶漬けのまぐろ
さて、茶漬けに用いるまぐろだが、しびまぐろがいい。
しびまぐろは、ふつうすし屋で使っているまぐろのことである。まぐろのトロといって、白っぽい、脂っ濃いところをよろこぶ。脂っ濃いところは、男の四十歳以前の好みである。四十歳以後になると、だんだん脂っ濃いものから嗜好が遠ざかる。
茶漬けに用いるまぐろの材料も、トロ、中トロ、赤身、好みによって選択すればいいわけである。
脂の少ない赤身は赤身で美味いし、脂の多いところ…