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若鮎について
わかあゆについて
作品ID50012
著者北大路 魯山人
文字遣い新字新仮名
底本 「魯山人の美食手帖」 グルメ文庫、角川春樹事務所
2008(平成20)年4月18日
初出「星岡」1935(昭和10)年
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2010-01-08 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 あゆの小さなものは、どうかするとうまくないというひともあるが、わたしは一概にそうは思わない。
 小田原の手前に酒匂川という川がある。まだ禁漁中にあの近辺のひとが酒匂川のあゆをよく盗み取りするが、わたしはそれをもらうことがあって、たびたび食ったことがある。大きさはまだやっと一寸ぐらいのものだが、ちょっとあぶって食うと、実に調子の高いうまさが舌になじむ。
 もっとも、最初東京にはいってくるものは、江州地方でいわゆるあゆの飴煮にするものであって、これはあまり美味なものではない。あゆは不思議な魚で、水勢のないところでは大きくならない。また同じ水勢であっても、水質や餌の関係であろうか、川によって成長率が違う。一般に大きな川のあゆは大きくなり、小さな川のものは小さく育つようである。
 琵琶湖のあゆは非常に小さく、一年経っても若あゆ以上に大きくならない。大きくならないで一人前に子を持っている。昔は琵琶湖のあゆは他のあゆとはまったく種類が違うかと思われたが、その実、琵琶湖で生まれた子あゆが江州から石山などを通って宇治川へ落ちて出ると、立派に成長するらしい。それかあらぬか、琵琶湖で孵化したあゆの稚魚を地方の渓流へ放流すると、通常のあゆ通り立派に成長することが分って、近来は諸所で盛んに放魚が行われているようだ。
 琵琶湖では、あゆの稚魚を茄でてひうおと呼んでいる。このひうおの大ぶりなのが飴煮にされて来るもので、琵琶湖にはほとんど無限といってよいほど発生する。それがこの頃では諸地方の大川へどしどし放流され、あゆの産出を全国的に増加させている。この点、あゆ党にとってはまことにありがたいことである。
 ところで、前述の琵琶湖産のひうおなるものは、なんといっても小さすぎるから、みた目の割合にうまくない。しかし、このひうおも川に出て成長してからは一人前のあゆの味を備え、やはりうまい。そこで、先の酒匂川の若あゆのことなども合わせて考えてみると、若あゆなるものは結局琵琶湖のひうおではあゆらしいうまさはないが、初めから河川で発生したものはちょっとぐらいでも、すでに立派な美食価値を持っている。いわば、それぞれの川の味をもっているのだ。



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