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雷嫌いの話
かみなりぎらいのはなし
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「橘外男ワンダーランド ユーモア小説篇」 中央書院
1995(平成7)年12月4日
初出「旅」1952(昭和27)年8月
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2010-01-01 / 2014-09-21
長さの目安約 24 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 びしょびしょと、鬱陶しい雨が降っている。雨垂れの音を聞きながら、私は、このペンを握っているのであるが、この文章が雑誌に載って、世の中へ出る時分には、カラッと晴れた暑い夏がやってくると思うと、私は、何ともいえぬ憂鬱な気持になってくる。
 夏が、厭なのではない。夏につきものの、ゴロゴロピシャに、また二、三カ月、悩まされなければならぬのかと思うと、心底、気持が暗くなってくる。
 いつか、私のところへ来たある雑誌の記者が、あなたは雷がお嫌いだそうですね? と空っとぼけて聞くから、まさかにいい年をして、初めて逢った記者クンに、ほんとうのことをいって、こいつ臆病な奴だなんて思われるのは敵わんから、ええまあね、あんまり好きな方ではないでしょうねと、他人事みたいな顔をしてくれたら、へえそうですかね、その程度のお嫌いなんですかね? 私はまた、青い顔をして蚊帳でもお吊りになるんだと思ってたんですがね。だって小説家のKさんのところへ行きましたら、そうだねえ、まず雷嫌いの横綱は、橘氏だろうね。あるいは、大関くらいかも知らんが、関脇とは下らんよ! って、笑ってられましたからねと、大真面目にいわれて、返事に困ったことがある。ヘッポコ小説家だから、小説の方はなかなか横綱までゆかぬが……横綱どころか! フンドシ担ぎも覚束ないが、ほほう、してみると、雷の方ではいつの間にか、横綱の近くまで出世してるのかな! と、苦笑したことがある。

      子供の前で顔色なし

 横綱だか、取り的だか知らんが、ともかく、雷はイヤですね、実に厭だ。ゴロゴロピカリとくると、もう生きた心地はせん! いい年をして、子供たちの手前、面目ないから、別段戸棚に潜るわけでもなければ、蚊帳を吊るわけでもない。平気な顔を装うて、机の前に坐ったり、人と話はしているが、上の空だ。一切の思念がことごとく雷にばかりいってしまう。ピカッと光るたんびに、五体が竦む。ハッとしどおしで、眼を閉じてみたり、胆を冷やしたり、鳴り始めてから鳴り終るまで、雷さまのことばかり、考えている。
 今のは、どの辺で鳴ったのかな? もう、頭の上へ、戻ってきたんだろうな? 今のは光ってから口の中で、十勘定してから鳴ったから、大分遠のいたか知れん? なぞと夢中で考えてるから、人から何か聞かれても、トンチンカンな返事ばかりする。夕立ちが済むと、私はもう芯が疲れて、グッタリして、道の十里も歩いたほどに、へとへとになる。
 そのくせ、雨雲が切れて、陽の光が、さっと樹間から洩れて、音が大分遠のいた頃から、無暗やたらと、精神が爽やかになって、年甲斐もなく、ハシャギたくなる。今日はまあ、これで救われたと思うと重荷を下ろしたように吻っとして……、夕立ちがきて涼しくなったのと、雷から解放されて蘇生した喜びとで、人の知らぬ二重の爽快感を、私だけは味わっているわけなのであるが、…

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