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華族のお医者
かぞくのおいしゃ
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「明治の文学 第3巻 三遊亭円朝」 筑摩書房
2001(平成13)年8月25日
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2009-08-05 / 2014-09-21
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 エヽ当今の華族様とは違ひまして、今を去ること三十余年前、御一新頃の華族様故、まだ品格があつて、兎角下情の事にはお暗うござりますから、何事も御近習任せ。殿「コレ登々。登「ハツ/\お召でござりますか。殿「アヽ予は華族の家に生れたが、如何に太平の御代とは申せども、手を袖にして遊んで居つては済まぬ、え我先祖は千軍萬馬の中を往来いたし、君の御馬前にて血烟を揚げ、槍先の功名に依て長年大禄を頂戴して居つたが、是から追々世の中が開けて来るに従つて時勢も段々変化して参るから、何か身に一能を具へたいと考へて、予は人知れず医学を研究したよ。登「へえー夫は何うも結構な事で。殿「別に師匠も取らず書物に就いて独学をしたのぢやが、色々な事を発明したよ、まア見るが宜い、是だけ器械を集めたから。登「ヘヽー成程、何日の間に、何うも恐れ入りましたことで、併し私一人で拝見いたしますのも些と惜いやうで、彼所に詰合て居る者共にも一応見せてやりたく心得ますが……。殿「おゝ夫は宜からう、コレ伊丹も何も皆此所へ来い。伊「へい/\。登「上が是だけのお道具を何日の間にかお集めに成たのだ。伊「へえー、是は何と申すもので。殿「ウム、夫は検熱器と云ふものだ、是が聴診器、是が打診器と云ふものだ。伊「へえー。殿「一つ診てやらうか。登「いえ私は別段何処も。殿「いや然うでない、まア診て遣はすから裸体になれ、是も稽古じや、何でも事は度々数を掛んければいかぬからの。登「併し御前のお目通りで裸体になるは恐入ますことで。殿「ナニ構はぬ、許すから宜い。登「然らば御免を……エヘヽヽ斯ういふ事に致しますか。殿「ウム、好い骨格ぢやな。登「へい、お蔭さまで四十五歳まで一度も煩らうたことはござりませぬ。殿「左様であらう、ソラ此器で脈搏を聴くんだ、何うだグウ/\鳴るだらう。登「エヘヽヽヽくすぐつたうござりますな、左様横ツ腹へ器械をお当あそばしましては。殿「いや斯ういふ処に病は多くあるものだからな、是から一つ打診器で肺部を叩いて見てやらう。登「いや夫は何うも危うございます。殿「ナニ心配するな、ソラ斯ういふ塩梅だ、トントン/\トンとナ。登「アヽ痛うござります。殿「ハヽー少し逆上して居るやうぢやから、カルメロを一分三厘にヤーラツパを五分調合して遣すから、小屋へ帰つて一日に三囘の割合で服薬いたすがよい。登「へい、何うも有難う存じます、是は何うも大層奇麗なお薬で。殿「ウム、早く云へば水銀剤だな。登「へえー、之を飲ましたら喉が潰れませう。殿「ナニ大丈夫だ、決して左様な心配はない良く喉が潰れても病気さへ癒れば夫で宜からう。登「イエ喉が潰れては困ります。殿「ナニ心配する事はない、コレ井上此所へ出い、序に其方も診て遣はすから。井上「有難うは存じますが、何分裸体になりますのを些と憚ります儀で、生憎今日は下帯を締めて参りませぬから。殿「イヤ許す、其様な事は毫も構はぬ…

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