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牛車
うしぐるま
作品ID50084
著者三遊亭 円朝
文字遣い新字旧仮名
底本 「明治の文学 第3巻 三遊亭円朝」 筑摩書房
2001(平成13)年8月25日
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2009-08-14 / 2014-09-21
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 此度 英照皇太后陛下の御大喪に就きましては、日本国中の人民は何社でも、総代として一名づゝ御拝観の為めに京都へ出す事に相成りました。処で数なりません落語家社会でも、三遊社の頭取円生と円遊の申しまするには、仮令落語家社会でも、何うか総代として一名は京都へ上せまして、御車を拝ませたいものでござりますが、扨どうも困る事には、是まで十五日間の謹みで長休みをいたして居りました処へ、御停止あけとなつて、又休んで京都まで参らうといふものは一人もありませんで、誠に困りましたが、幸師匠はマア寄席へもお出なさいません閑人でいらつしやる事でげすから、御苦労ながら三遊社の総代として、貴方京都へ行つて下さる訳には参りませんかと、円朝が頼まれました。元より此度の御大喪は、是迄にない事でございますから、何うかして拝したいと存じて居りました処へ、円生と円遊に頼まれました事故、腹の中では其実僥倖で、そんならば私が皆なの総代として京都へ往きませうと受合ひました。
 夫から徐々京都へ参る支度をして居ります中に、新聞で見ましても、人の噂を聞きましても、西京の旅籠屋は客が山を為
 な》して、ミツシリ爪も立たないほどだといふ事でございますから、此奴は迂かり京都まで往つて、萬一宿がないと困ると思ひまして、京都の三条白河橋に懇意な者がございますから、其人の処へ郵便を出して、私が参るから何うか泊めて下さいと申して遣りますると、其返事が参りました。「拝啓益々御壮健奉慶賀候、随つて貴君御来京の趣に御座候得共、実は御存じの通り御大喪にて、当地は普通の家にても参列者のために塞がり、弊屋も宿所に充てられ、殊に夜のもの等も之れなく、甚だ困り居り候折からゆゑ、誠に残念には御座候得共、右様の次第に付き悪からず御推察なし被下度候、匆々」といふ返事が参りました。私も少し驚きまして、此分では迚も往く事は出来まいと困りましたから、私が日頃御贔屓に預かりまする貴顕のお方の処へ参りまして、右のお話をいたしますると、そんならば幸私も往くから、連れて往つて遣ると仰しやいました。誠に有難い事で、私もホツと息を吐いて、それから二日の一番汽車で京都へ御随行をいたして木屋町の吉富楼といふ家へ参りました、先方では貴顕のお客様ですから丁寧の取扱ひでございましてお上の方はお二階或は奥座敷といふので私は次の室のお荷物の中の少々ばかりの明地へ寐かして頂く事に相なりました。
 扨六日には泉山といふ処へお出掛けになるに就て、私もお供をいたし四条通りから五条を渡り、松原通りから泉山に参りまするには、予て話に聞いて居りました、夢の浮橋といふのを渡りました、二三町参つて総門を這入り夫から爪先上りに上つて参りますると、少し広い処がございまして、其処に新築になりました、十四五間もある建家がございました。是は此の時のお掛りの方々のお詰所と見えまして、此所で御拝があるといふ…

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