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士族の商法
しぞくのしょうほう
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「明治の文学 第3巻 三遊亭円朝」 筑摩書房
2001(平成13)年8月25日
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2009-08-05 / 2014-09-21
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 上野の戦争後徳川様も瓦解に相成ましたので、士族さん方が皆夫々御商売をお始めなすつたが、お慣れなさらぬから旨くは参りませぬ。御徒士町辺を通つて見るとお玄関の処へ毛氈を敷詰め、お土蔵から取出した色々のお手道具なぞを並べ、御家人やお旗下衆が道具商をいたすと云ふので、黒人の道具商さんが掘出物を蹈み倒にやつて参ります。「エヽ殿様今日は。士「イヤ、好い天気になつたの。「ヘイ、エヽ此水指は誠に結構ですな、夫から向うのお屏風、三幅対の探幽のお軸夫に此霰の釜は蘆屋でげせうな、夫から此長二郎のお茶碗――是は先達もちよいと拝見をいたしましたが此四品でお幾らでげす。士「何うもさう一時に纏めて聴かれると解らぬね、此三幅対の軸は己の祖父が拝領をしたものぢやがね、釜や何かは皆己が買つたんだ、併し貴様の見込で何の位の価があるぢやらう、此四品で。「左様でげすな、四品で七円位では如何でげせう。士「ヤ、怪しからぬことを云ふ、釜ばかりでもお前十五両で買うたのだぜ。「併し此節は門並道具屋さんが殖まして、斯様な品は誰も見向もしないやうになりましたから、全然値がないやうなもんでげす、何うも酷く下落をしたもんで。士「成程ハー左様かね、夫ぢや宅へ置ても詰らぬから持てつて呉れ、序に其所に大きな瓶があるぢやらう、誠に邪魔になつて往かぬから夫も一緒に持て行くが宜い。などと無代遣つたり何かいたし誠にお品格の好い事でござりました。是は円朝が全く其の実地を見て胆を潰したが、何となく可笑味がありましたから一席のお話に纏めました。処が当今では皆門弟等や、孫弟子共が面白をかしく種々に、色取を附けてお話を致しますから其方が却てお面白い事でげすが、円朝の申上げまするのは唯実地に見ました事を飾りなく、其盤お取次を致すだけの事でござります。小川町辺の去る御邸の前を通行すると、御門の潜戸へ西の内の貼札が下つてあつて、筆太に「此内に汁粉あり」と認めてあり、ヒラリ/\と風で飜つて居つたから、何ぞ落語の種子にでもなるであらうと存じまして、門内へ這入つて見ましたが、一向汁粉店らしい結構がない、玄関正面には鞘形の襖が建てありまして、欄間には槍薙刀の類が掛て居り、此方には具足櫃があつたり、弓鉄砲抔が立掛てあつて、最とも厳めしき体裁で何所で喫させるのか、お長家か知ら、斯う思ひまして玄関へ掛り「お頼ウ申ます、え、お頼ウ申ます。「ドーレ。と木綿の袴を着けた御家来が出て来ましたが当今とは違つて其頃はまだお武家に豪い権があつて町人抔は眼下に見下したもので「アヽ何所から来たい。「へい、え、あの、御門の処に、お汁粉の看板が出て居りましたが、あれはお長家であそばしますのでげせうか。「アヽ左様かい、汁粉を喰に来たのか、夫は何うも千萬辱ない事だ、サ遠慮せずに是から上れ、履物は傍の方へ片附て置け。「へい。「サ此方へ上れ。「御免下さいまして。……是から案内に従つて十二…

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