えあ草紙・青空図書館 - 作品カード


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年始まはり
ねんしまわり
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「明治の文学 第3巻 三遊亭円朝」 筑摩書房
2001(平成13)年8月25日
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2009-07-17 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より




 私は昨年の十二月芝愛宕下桜川町へ越しまして、此春は初湯に入りたいと存じ、つい近辺の銭湯にまゐりまして「初湯にも洗ひのこすや臍のあか」といふのと、「をしげなくこぼしてはいる初湯かな」と二句やりました。板の間には余り人が居りませぬで、四五人居りました。此湯は昔風の柘榴口ではないけれども、はいる処が一寸薄暗くなつて居ります。板の間に留桶を置いて洗つてゐる年輩の人が、御近辺のお心安い方と見えて言葉をかけ、甲「お目出度うございます。乙「はい、お目出度うございます。甲「昨日は御年頭[#挿絵]りでございましたか。乙「いやもう草臥れて……年を老つてはいけませぬ、実にがツかりしました。甲「へー御遠方をお歩きでしたか。乙「えゝ初め宅を出まして、それから霊南坂を上つて麻布へ出ました、麻布から高輪へ出まして、それから芝へ帰つて来て、新橋を渡り、煉瓦通りを[#挿絵]りまして、京橋から日本橋から神田へ出ましてな、下谷から浅草を[#挿絵]つて、それから貴方、本郷台へかゝりました、それから牛込へ出まして、四谷から麹町を[#挿絵]つて帰つてまゐりまして、いやもうがつかり致しました。と話をしてゐると、湯の中で、甲「どうしたい昨日は。乙「どうも草臥れたつてねえサ、ひどい草臥れやうをしたぜ。甲「どうしたえ。乙「どうしたつて無えぢやア無えか、昨日は年始[#挿絵]りだ、朝家を出て霊南坂を上つて、麻布へ出たんだ、麻布から高輪へ出て、それから芝へ帰つて来て、新橋を渡り、煉瓦通りを[#挿絵]つて神田へ出て、下谷から浅草へ出たらう、それから本郷台へ上つて、牛込へ出て四谷から麹町へ出て帰つて来た、いやもうがつかりした。と云ふのを板の間にゐる前の人が聞いて、「誰だ己の真似をするのは。と云つて腹を立て、其男を引摺り出して打ん殴つたところが、昨日自分の連れて歩いた車夫でございました。
(拠武陽生筆記)



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