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エリザベスとエセックス
エリザベスとエセックス
原題ELIZABETH AND ESSEX
著者
翻訳者片岡 鉄兵
文字遣い新字新仮名
底本 「世界教養全集 27」 平凡社
1962(昭和37)年9月29日
初出「エリザベスとエセックス」富士出版社、1941(昭和16)年8月
入力者sogo
校正者孝奈花
公開 / 更新2011-03-05 / 2014-09-21
長さの目安約 333 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

第一章

 イギリスにおける宗教改革は、単に宗教上だけの事件ではない。それは社会的な事件でもあった。中世紀精神のカビが払い落とされると同時に、それにむすびついた革命が、同様の完成度と同様の深達度をもって、俗世の生活にも、権力の座の組織のなかにも起こった。幾世代かにわたってこの世を支配した騎士と僧門は没落し去り、彼らの位置は新しい人間階級に移った。武士でもなく、聖職でもないその階級の、実力もあり活力もある手のうちに、政治の手綱は、そのおいしい利益とともに落ちていったのである。ヘンリー八世の政略の産物であるところの、この驚くべき新興貴族階級は、ついには自分を創ってくれた権力を逆に征服してしまった。王座の人物は影のごとく薄れ、一方で、ラッセル家、カベンディッシュ家、セシル家等々が最高の強固性をもってイギリスを支配し始めた。何世代もの間、これらの貴族がすなわちイングランドであって、彼らを除いてはイングランドの幻想さえ浮んでこないこと、現代においてなお然りである。
 これらの変化は急速にやってきた――それはエリザベス女王の時代に完成された。一五六九年における北方大名伯爵の反逆は、旧勢力がその運命を避けようための最後の大きな足掻きだった。それが失敗に終わった結果、ノウフォークのみじめな公爵――スコットランドの女王マリーとの結婚を夢見たあの貧弱なホワアドは、首を断たれた。とはいえ、古き昔よりの封建精神が、まったく跡を絶ったわけではない。もう一度、エリザベスの世が終わるまでに、それは燃え上がった。ただ一人の人物、――ロバアト・デヴルウ、すなわちエセックスの伯爵という一個の人物を化身として燃え上がった。――古代の武士道と、過去のはなばなしい紳士道とにさまざま彩られながら照り輝いたにもかかわらず、なんの実質的な根拠ももたなかった悲しさは逞しく燃え上がり、風に揺らめいた、と思うまに、また突然に消え失せてしまった。あのようにも紛糾した経緯と、絶望的な混乱を経て、ついに恐ろしい結末を告げたエセックス伯の歴史のなかにこそ、われわれは逆運と闘う一個の人間の悲劇的な面貌を見、かつ没落世界のあの世からの呻きをさながら聞き分ける思いをするであろう。
 父の代にはじめてエリザベスによって、エセックス伯爵の称号を設定された彼の家は、中世イングランドのあらゆる名族の血脈を引いている。ハンチンドンの伯爵、ドウセットの侯爵、ロオド・ヘラアズ――ボウアン家、リバア家等々、エセックスの[#「エセックスの」は底本では「エックスの」]家系の根原には、それらの名門が群をなしている。先祖のなかの一人、ボウアンのエリイナはヘンリー四世の妃マリーの妹だった。もう一人、アン・ウッドヴィルは、エドワード四世の妻エリザベスの妹である。ウッドストックのトウマス、すなわちグロウスター公を通してさらに遡れば、エセックス家はエドワー…

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