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掏摸と泥棒たち
すりとどろぼうたち
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「燈火節」 月曜社
2004(平成16)年11月30日
入力者竹内美佐子
校正者伊藤時也
公開 / 更新2010-11-17 / 2014-09-21
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 Y氏が山手線電車の中で集団掏摸のためにポケツトの中をみんな奪られて帰つて来た。その日Y氏夫妻は帝劇の「モルガンお雪」を観ることになつてゐて、Y氏の切符はポケツトの中のほかの物と一しよに掏摸の手に渡り、奥さんの切符は無事に家に残つてゐた。一人でも行つて観て来たらとY氏は言つたが、奥さんは掏摸と並んで芝居を見ることになるかもしれないから止めると言つた。掏摸はそんな切符は帝劇の入口あたりで誰かに売つてしまふだらうから、奥さんの隣りに腰かける人は掏摸とは何も関係のないよその人だらうよとY氏が言つた。けれど切符を見た拍子に掏摸の一人が急に「モルガンお雪」をみる気になるかもしれないし、だいいち自分の隣りの人が掏摸だか唯のしろうとだか、どつちとも分らないあやふやの気持で芝居をみるのはたまらないと言つて彼女はゆくのを止めた。
 ちやうどそこへ私が行きあはせて「いかが? 気味がお悪くなければ、夕方からですから、行つて御らんにならない?」と言はれたけれど、私もさういふ事にかけてはひどく弱虫だから、その一枚の切符はたうとう無駄にして、その代りゆつくりお茶を飲んで災難の話をきいた。この前にもY氏はやはり山手電車で掏られた、その時は服の胸のところを刃物で幾すじも切られて紙入をとられたが、その日は紙入の中が寒かつたから、専門家は骨折損をしたわけであつた。彼が肥つて背が高いので、お金を持つてるやうな錯覚を相手にもたせたのだらうと言つてゐた。その時は少しも知らないで掏られてしまつたからたぶん一人の仕事と思はれるが今度のは初めからよく分つてゐたさうで、隣席に一人が腰かけ、一人がかぶさるやうに前の吊革にぶらさがり、もう一人大きな男が出口にとほせんぼをして立つてゐたさうである。新聞に出てゐる話でも、集団掏摸では絶対に逃げられないといふことである。
 やはりY氏たちの知つてゐる某夫人が昨年関西旅行中、友だち二三人と奈良へ遊びに行つた。電車の改札口に立つてゐる時、横の方にゐた派手な洋装の娘に「いま、何時でせう?」と訊かれたので何の気もなく腕時計をちよつと見て時間を教へてやつた。一しよに立つてゐた友達の奥さんも娘の声につれて同時に自分の腕時計をのぞいたさうである。さて彼等が電車に乗らうとした時それほど混んでもゐないのに、ステツプのところに三四人の若い男女がゐてわつしよわつしよ揉み合つてほかの人たちが乗れないやうに邪魔をした。やつとのこと乗り込んだ拍子に二人の奥さんたちの腕時計のくさりがぱらりと落ちて、もうすでに時計は奪られてゐた。すこし後の方に立つてゐたお連れの奥さんたちにはその掏摸たちの仕事がよく分つてゐても、とても声をかけることも近寄ることも出来なかつたといふ話であつた。すべてかういふ集団的の行動は終戦以来のことで、昔も大泥棒がたくさんの子分をつれて江戸や関東を荒し廻つた話もあるけれど、単独で上…

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