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狩太農場の解放
かりぶとのうじょうのかいほう
作品ID50213
著者有島 武郎
文字遣い新字旧仮名
底本 「有島武郎全集第九卷」 筑摩書房
1981(昭和56)年4月30日
初出「小樽新聞」1923(大正12)年5月20日、21日(9817号、9818号)
入力者mono
校正者染川隆俊
公開 / 更新2009-09-20 / 2014-09-21
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

それは自己の良心の満足を得る
已む可らざる行為

 私が胆振国狩太農場四百数十町歩を小作人の為に解放して数ヶ月になりますが、其儘小作人諸君の前に前記の土地を自由裁量に委ねる事は私が彼の土地を解放した精神である狩太農場民の自治共存を永久ならしめ延いて漸次附近村落を同化して行き得る如き有力なる団体たらしめる上に於て尚多少徹底しない所があるので狩太農場民の規約なるものを作り私の精神を徹底したい考へから森本博士に其規約の作製を依頼してあります。
 此の森本博士の手許に『有島の土地解放は甚だ困る。吾々は地主と小作人との利益を調和し共存共栄の策を樹立しようと研究して居たのに有島が私共地主の地位を考へないで突然に彼の様に土地を投げ出したので私達の立場は非常に困難になつた。元来有島は自分自身には確実に生活の根拠を有つて居るのであるから狩太農場を解放して小作人に与へても其生活は何等脅威されないが、私共が若し左様に土地を解放して与へたなら生活の根柢を全く破壊されて了ふのである。斯様な社会的に大影響を有する行動を如何に自分の所有物を処理する事が自由であるからとて無造作に為すとは余りに乱暴な遣口である』と云ふ意味や其他私の遣方を非難する書面が沢山来て居るさうです。
 けれ共私は如何に考へても小作人と地主との経済的地位を調和し得ることは考へ得られない。夫れで私自身が何等労働するの結果でもなく小作人から労働の結果を搾取する事は私の良心をどうしても満足せしめる事が出来なかつた。で其の結果は私の文芸上の作品を大変に汚す事になり自己矛盾に陥つて苦んで来たのである。そこで私は私の土地を小作人達に与へたもので私としては、土地解放に依つて永らく悩まされて居た実際生活と思想との不調和より来る大煩悶から逃れたもので、晴々しい心地に今日なり得たのは全く土地解放の結果です。
 夫故土地解放は私として洵に已むを得ない結果行つたもので何と非難されても致し方ありませぬ。私が土地解放の社会的影響や私が既に充分に生活の安定を得て居り乍ら斯かる偽善的な行動をしたと云はれる非難に対して甚だ御尤もなる御説と恐縮する所であるが併し私にも多少の弁明は出来る積りです。
 若し地主諸君にして真に小作人と地主との調和が出来ると云ふ確信があるならば一有島の土地解放の如きは何の恐るゝ所もない筈で其の所信を行ひ其の調和を御図りになれば宜しいのではないか。微力なる私の土地解放で崩壊したり動揺する様な確信であるならば其の根柢が空虚なる為で決して充分に鞏固なるものでない証拠ではあるまいか。本当に確かりした信念があるならば何の恐れをなす必要もないと思ふ。又土地解放の結果は自分達の生活の根柢を破壊するから困ると言はるゝも不労利益を貪つて何等人間の社会生活の上に貢献も努力もしないで労働者小作人の労働の結果を奪つて生活して行く事は決してよく考へられた…

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