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藤十郎の恋
とうじゅうろうのこい
作品ID503
著者菊池 寛
文字遣い新字新仮名
底本 「菊池寛 短篇と戯曲」 文芸春秋
1988(昭和63)年3月25日
入力者真先芳秋
校正者野口英司
公開 / 更新1999-01-01 / 2014-09-17
長さの目安約 25 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

人物
 坂田藤十郎     都万太夫座の座元、三が津総芸頭と賛えられたる名人
 霧浪千寿      立女形、美貌の若き俳優
 中村四郎五郎    同じ座の立役
 嵐三十郎      同上
 沢村長十郎     同上
 袖崎源次      同じ座の若女形
 霧浪あふよ     同上
 坂田市弥      同上
 小野川宇源次    同じ座のわかしゅ形
 藤田小平次     同上
 仙台弥五七     同じ座の道化方
 服部二郎右衛門   同じ座の悪人形
 金子吉左衛門    同じ座の狂言つくり
 万太夫座の若太夫  万太夫座の持主
 楽屋頭取
 楽屋番       二、三人
  その他大勢の若衆形、色子など
 宗清の女中大勢
 宗清の女房お梶   四十に近き美しき女房
  その他重要ならざる二、三の人物

 元禄十年頃

 京師四条河原中島

          第一場

――四条中島都万太夫座の座付茶屋宗清の大広間。二月の末のある晩。都万太夫座の役者たちによって、弥生狂言の顔つなぎの饗宴が開かれている。百目蝋燭の燃えている銀の燭台が、幾本となく立て並べられている。舞台の上手に床の間を後に、どんすの鏡蒲団の上に悠然と座っているのは、坂田藤十郎である。髪を茶筌に結った色白の美男である。下には、鼡縮緬の引かえしを着、上には黒羽二重の両面芥子人形の加賀紋の羽織を打ちかけ、宗伝唇茶の畳帯をしめている。藤十郎の右には、一座の立女形たる霧浪千寿が座っている。白小袖の上に紫縮緬の二つ重ねを着、天鵞絨羽織に紫の野良帽子をいただいた風情は、さながら女のごとく艶かしい。二人の左右に、中村四郎五郎、嵐三十郎、沢村長十郎、袖崎源次、霧浪あふよ、坂田市弥、小野川宇源次、藤田小平次、仙台弥五七、服部二郎右衛門、金子吉左衛門などが居ならんでいる。席末には若衆形や色子などの美少年が侍している。万太夫座の若太夫は、杯盤の闇を取り持っている。
幕が開くと、若衆形の美少年が鼓を打ちながら、五人声を揃えて、左の小唄を隆達節で歌う。

唄「人と契るなら、薄く契りて末遂げよ。もみじ葉を見よ。薄きが散るか、濃きが散るか、濃きが先ず散るものでそろ」
(歌い終ると、役者たち拍手をして慰う。下手の障子をあけ、宗清の女中赤紙の付いた文箱を持って出る)
女中 藤十郎様にお文がまいりました。
若太夫 (中途で受取りながら)火急の用と見える。(藤十郎に渡す)
藤十郎 (受取りて)おおいかにも、火急の用事と見えまする。ちょっと披見いたしまする。皆の衆御免なされませ。なになに漣子どの、巣林より、さて近松様からの書状じゃ。(口の中に黙読する、最後に至りて声を上げる)こんどの狂言われも心に懸り候ままかくは急飛脚をもって一筆呈上仕り候。少長どのに仕負けられては、独り御身様の不覚のみにてはこれなく、歌舞伎の濫觴たる京歌舞伎の名…

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