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ろくろ首
ろくろくび
原題ROKURO-KUBI
著者
翻訳者田部 隆次
文字遣い新字新仮名
底本 「小泉八雲全集第八卷 家庭版」 第一書房
1937(昭和12)年1月15日
入力者京都大学電子テクスト研究会入力班
校正者京都大学電子テクスト研究会校正班
公開 / 更新2009-08-24 / 2014-09-21
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 五百年ほど前に、九州菊池の侍臣に磯貝平太左衞門武連と云う人がいた。この人は代々武勇にすぐれた祖先からの遺伝で、生れながら弓馬の道に精しく非凡の力量をもっていた。未だ子供の時から劒道、弓術、槍術では先生よりもすぐれて、大胆で熟練な勇士の腕前を充分にあらわしていた。その後、永享年間(西暦一四二九―一四四一)の乱に武功をあらわして、ほまれを授かった事たびたびであった。しかし菊池家が滅亡に陥った時、磯貝は主家を失った。外の大名に使われる事も容易にできたのであったが、自分一身のために立身出世を求めようとは思わず、また以前の主人に心が残っていたので、彼は浮世を捨てる事にした。そして剃髪して僧となり――囘龍と名のって――諸国行脚に出かけた。
 しかし僧衣の下には、いつでも囘龍の武士の魂が生きていた。昔、危険をものともしなかったと同じく、今はまた難苦を顧みなかった。それで天気や季節に頓着なく、外の僧侶達のあえて行こうとしない処へ、聖い仏の道を説くために出かけた。その時代は暴戻乱雑の時代であった。それでたとえ僧侶の身でも、一人旅は安全ではなかった。

 始めての長い旅のうちに、囘龍は折があって、甲斐の国を訪れた。ある夕方の事、その国の山間を旅しているうちに、村から数理を離れた、はなはだ淋しい処で暗くなってしまった。そこで星の下で夜をあかす覚悟をして、路傍の適当な草地を見つけて、そこに臥して眠りにつこうとした。彼はいつも喜んで不自由を忍んだ。それで何も得られない時には、裸の岩は彼にとってはよい寝床になり、松の根はこの上もない枕となった。彼の肉体は鉄であった。露、雨、霜、雪になやんだ事は決してなかった。
 横になるや否や、斧と大きな薪の束を脊負うて道をたどって来る人があった。この木こりは横になっている囘龍を見て立ち止まって、しばらく眺めていたあとで、驚きの調子で云った。
「こんなところで独りでねておられる方はそもそもどんな方でしょうか。……このあたりには変化のものが出ます――たくさんに出ます。あなたは魔物を恐れませんか」
 囘龍は快活に答えた、「わが友、わしはただの雲水じゃ。それゆえ少しも魔物を恐れない、――たとえ化け狐であれ、化け狸であれ、その外何の化けであれ。淋しい処は、かえって好む処、そん処は黙想をするのによい。わしは大空のうちに眠る事に慣れておる、それから、わしのいのちについて心配しないように修業を積んで来た」
「こんな処に、お休みになる貴僧は、全く大胆な方に相違ない。ここは評判のよくない――はなはだよくない処です。「君子危うきに近よらず」と申します。実際こんな処でお休みになる事ははなはだ危険です。私の家はひどいあばらやですが、御願です、一緒に来て下さい。喰べるものと云っては、さし上げるようなものはありません。が、とにかく屋根がありますから安心してねられます」
 熱心に…

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