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源氏物語
げんじものがたり
作品ID5045
副題30 藤袴
30 ふじばかま
著者紫式部
翻訳者与謝野 晶子
文字遣い新字新仮名
底本 「全訳源氏物語 中巻」 角川文庫、角川書店
1971(昭和46)年11月30日改版
入力者上田英代
校正者伊藤時也
公開 / 更新2003-10-10 / 2014-09-18
長さの目安約 17 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

むらさきのふぢばかまをば見よといふ
二人泣きたきここち覚えて (晶子)

 尚侍になって御所へお勤めするようにと、源氏はもとより実父の内大臣のほうからも勧めてくることで玉鬘は煩悶をしていた。それがいいことなのであろうか、養父のはずである源氏さえも絶対の信頼はできぬ男性の好色癖をややもすれば見せて自分に臨むのであるから、お仕えする君との間に、こちらは受動的にもせよ情人関係ができた時は、中宮も女御も不快に思われるに違いない、そして自分は両家のどちらにも薄弱な根底しかない娘である。中宮や女御における後援は期して得られるものでない上に、自分の幸運げな外見をうらやんで何か悪口をする機会がないかとうかがっている人を多く持っていてはその時の苦しさが想像されると、若いといってももう少女でない玉鬘は思って苦しんでいるのである。そうかといって今のままで境遇を変えずにいることはいやなことではないが、源氏の恋から離れて、世間の臆測したことが真実でなかったと人に知らせる機会というものの得られないのは苦しい。実父も源氏の感情をはばかって、親として乗り出して世話をしてくれるようなことはないと見なければならない。曖昧な立場にいて自身は苦労をし、人からは嫉妬をされなければならない自分であるらしいと玉鬘は歎かれるのであった。実父に引き合わせてからはもう源氏は道徳的にはばからねばならぬことから解放されたように、戯れかかることの多くなったことも玉鬘を憂鬱にした。自分の心持ちをにおわしてだけでも言うことのできる母というものを玉鬘は持っていなかった。東の夫人にせよ、南の夫人にせよ、娘らしく、また母らしくはして交わってくれるが、どうしてそんな貴婦人に内密の相談などが持ちかけられようと思うと、だれよりも哀れなのは自分の身の上であるような気がして、夕方の空の身にしむ色を、縁に近い座敷からながめて物思いをしているのであったが、その様子はきわめて美しかった。淡鈍色の喪服を玉鬘は祖母の宮のために着ていた。そのために顔がいっそうはなやかに引き立って見えるのを、女房たちは楽しんでながめている所へ、源宰相の中将が、これも鈍色の今少し濃い目な直衣を着て、冠を巻纓にしているのが平生よりも艶に思われる姿で訪ねて来た。最初のころから好意を表してくれる人であったから、玉鬘のほうでも親しく取り扱った習慣から、今になっても兄弟ではないというような態度をとることはよろしくないと思って、御簾に几帳を添えただけの隔てで、話は取り次ぎなしでした。今日は源氏の用で来たのである。宮中からあった仰せを源氏は子息によって伝えさせたのである。おおようではあるが要領を得た返辞をする様子に、中将は貴女と話し合う快感が覚えられた。野分の朝にのぞいた顔の美しさの忘られないのを、その人は姉ではないかと恋しくなる心を責めていた中将であったが、そうした障りの除かれ…

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