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フランケンシュタイン
フランケンシュタイン
作品ID50479
副題01 はしがき
01 はしがき
著者宍戸 儀一
文字遣い新字新仮名
底本 「フランケンシュタイン」 日本出版協同
1953(昭和28)年8月20日
入力者京都大学電子テクスト研究会入力班
校正者京都大学電子テクスト研究会校正班
公開 / 更新2009-08-30 / 2014-09-21
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 この『フランケンシュタインまたは今様プロメテウス』(Frankenstein, or The Modern Prometheus)は、一八一八年、著者二十一歳の時に書かれた。その前の年に、フランス、スイス、ドイツ、オランダの諸国を六週間で旅行した話をシェリーとの共著で出しているから、この著者もかなり早熟の天才であったのだろう。
 しかし、著者自身「夫にはただ一つの出来事の暗示も負うておらず、ただ一聯の感情の暗示もほとんど受けなかった」と述べているが、夫シェリーの天才の影響なしにこの作品を書いたかどうかは疑わしい。もちろん、シェリー自身が筆を入れることはしなかったとしても、著者の幻想や情熱が夫の燃えるような影響のもとにあり、構想その他の点でいろいろの助言を受けたと考えられるふしもなくはない。シェリーはもともと、科学的な知識の習得と実験に興味をもっていたらしいが、当時の科学の水準が低かったために、中世の煉金術に興味をもち、幽霊を呼び出す実験に耽ったこともあるという。
 一八二八年の夏、シェリーと著者はスイスに行き、偶然に詩人バイロンと隣り合せに住むことになったが、その夏は雨が多く、さむざむした日が多かったので、家に閉じこもる日が多く、所在なさにそこにあったドイツの怪談の本を数冊読んだが、そのころ『チャイルド・ハロルド』の第三章を書いていたバイロン卿の提案で、こんな通俗的な幽霊話でなく、みなで一篇ずつ、超自然的な出来事を土台とする高度の文学作品を書こう、ということになった。こういう主題は、その当時の澎沛たる浪曼的風潮にも合致していたので、みんなで興奮して、さっそく書きはじめようと約束したが、そのうちに天気がよくなって、シェリーとバイロンはアルプスの山に出かけ、その壮大な風景に打たれて、雨の夜の陰気な約束などを忘れてしまった。しかし、この本の著者は忘れなかった。怖ろしさに歯の根が合わなくなり血も凍えてしまうような、そういう神秘的恐怖の物語――それを明けても暮れても考えたのである。
 ところが、ある日、バイロンとシェリーがいろいろ哲学的な問題を論じ、たまたま生命の原理について熱心に語って、最近におけるダーウィン博士の実験などにも触れたが、そのとき黙って耳を傾けていた著者は、怖ろしい暗示を感じて体を硬直させた。寝床に入っても眼が冴えて眠れなかった。そうだ、死体が生気を吹き返せないこともない。流電気はその可能性を考えさせる。生きるものの構成分子は造られ、接ぎ合され、活きた暖かさを賦与されるにちがいない。「私は見た、――閉じた眼で、しかし鋭い心的視力をもって――自分が接ぎ合せたもののかたわらに蒼ざめてひざまずく、穢らわしい技術の研究者を見た。」
 こうして、見るも怖ろしい怪物の影像が筆者の頭にこびりつき、逐い払っても去らなかった。
「私は恐怖しながら自分の物語を始めた。そ…

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