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源氏物語
げんじものがたり
副題33 藤のうら葉
33 ふじのうらは
著者
翻訳者与謝野 晶子
文字遣い新字新仮名
底本 「全訳源氏物語 中巻」 角川文庫、角川書店
1971(昭和46)年11月30日改版
入力者上田英代
校正者kompass
公開 / 更新2003-10-19 / 2014-09-18
長さの目安約 29 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

ふぢばなのもとの根ざしは知らねども
枝をかはせる白と紫    (晶子)

 六条院の姫君が太子の宮へはいる仕度でだれも繁忙をきわめている時にも、兄の宰相中将は物思いにとらわれていて、ぼんやりとしていることに自身で気がついていた。自身で自身がわからない気もする中将であった。どうしてこんなに執拗にその人を思っているのであろう、これほど苦しむのであれば、二人の恋愛を認めてよいというほどに伯父が弱気になっていることも聞いていたのであるから、もうずっと以前から進んで昔の関係を復活さえさせればよかったのである。しかしできることなら、伯父のほうから正式に婿として迎えようと言って来る日までは昔の雪辱のために待っていたいと煩悶しているのである。雲井の雁のほうでも父の大臣の洩らした恋人の結婚話から苦しい物思いをしていた。もしもそんなことになったならもう永久に自分などは顧みられないであろうと思うと悲しかった。接近をしようとはせずに、しかもこの二人のしているのは熱烈な相思の恋であった。内大臣も甥の価値をしいて認めようとせずに、結婚問題には冷淡な態度をとり続けてきたのであったが、雲井の雁の心は今も依然とその人にばかり傾いているのを知っては、親心として宰相中将の他家の息女と結婚するのを坐視するに忍びなくなった。話が進行してしまって、中務の宮でも結婚の準備ができたあとでこちらの話を言い出しては中将を苦しめることにもなるし、自身の家のためにも不面目なことになって世上の話題にされやすい。秘密にしていても昔あった関係はもう人が皆知っていることであろう、何かの口実を作って、やはり自分のほうから負けて出ねばならないとまで大臣は決心するに至った。表面は何もないふうをしていても、あのことがあってからは心から親しめない間柄になっているのであるから、突然言い出すのも如何なものであると大臣ははばかられた。新しい婿迎えの形式をとるのも他人が見ておかしく思うことであろうから、そんなふうにはせずによい機会に直接話してみたほうがよいかもしれないなどと思っていたが、三月の二十日は大宮の御忌日であって、極楽寺へ一族の参詣することがあった。内大臣は子息たちを皆引き連れて行っていて、すばらしく権勢のある家のことであるから多数の高官たちも法会に参列したが、宰相中将はそうした高官たちに遜色のない堂々とした風采をしていて、容貌なども今が盛りなようにもととのっているのであるから、高雅な最も貴い若い朝臣と見えた。恨めしかったあの時以来、いつも内大臣と逢うのは晴れがましいことに思われて、今日なども親戚じゅうの長者としての敬意だけを十分に見せて、そしてきわめて冷静に落ち着いた態度をとっている宰相中将に、今日の内大臣は特に関心が持たれた。仏前の誦経などは源氏からもさせた。中将は最も愛された祖母の宮の法事であったから、経巻や仏像その他の供養…

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