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源氏物語
げんじものがたり
副題56 夢の浮橋
56 ゆめのうきはし
著者
翻訳者与謝野 晶子
文字遣い新字新仮名
底本 「全訳源氏物語 下巻」 角川文庫、角川書店
1972(昭和47)年2月25日改版
入力者上田英代
校正者柳沢成雄
公開 / 更新2005-03-16 / 2014-09-18
長さの目安約 21 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

明けくれに昔こひしきこころもて生く
る世もはたゆめのうきはし (晶子)

 薫は山の延暦寺に着いて、常のとおりに経巻と仏像の供養を営んだ。横川の寺へは翌日行ったのであるが、僧都は大将の親しい来駕を喜んで迎えた。これまでからも祈祷に関した用でつきあっていたのであるが、特に親しいという間柄にはなっていなかったところが、今度の一品の宮の御病気の際に、この僧都が修法を申し上げて著るしい効果を上げたのを見た時から、大きな尊敬を払うようになって、以前に増した交情を生じたために、重々しい身でわざわざこの山寺へ訪ねて来てくれたとしてあらんかぎりの歓待をした。ゆるりと落ち着いて話などをしている客に湯漬けなどが出された。あたりのやや静かになったころ、
「小野の辺にお知り合いの所がありますか」
 と薫は尋ねた。
「そうです。それは古くなった家なのでございます。私に朽尼とも申すべき母がありまして、京にたいした邸があるのでもありませんから、私が寺にこもっております間は、近くに来ておれば夜中でも暁でも何かの時に私が役だつことになるかと思いまして小野に住ませてあるのでございます」
「あの辺は近年まで住宅も相応にあったそうですが、このごろは家が少なくなったそうですね」
 と言ったあとで、薫は座を進めて低い声になり、
「確かなこととも思われませんし、またあなたへお尋ねしましては、なぜ私がそれを深く知ろうとするのかと不思議にお思いになるであろうしとはばかられるのですが、その山里のお家で私に関係のある人がお世話になっているということを聞きましたが、事実であるとすれば、そうなるまでの経路などもお話し申しておきたいと考えていましたうちに、あなたのお弟子にしていただいて尼の戒を授けられたということが伝わってきましたが、真実でしょうか。まだ年も若くて親などもある人ですから、私の行き届かない所からなくしたように恨まれてもしかたのない人なのですが」
 と薫は言った。僧都は予期のとおりあの人はただの家の娘ではなかった。貴女であろうとは初めから考えられたことであった。自身で来てこれほどに言っておられる人であれば、深く愛された人に違いないと思うと、自分は僧であるにせよ、あまりに分別なくあの人の望みにまかせて出家をさせてしまったものであると胸がふさがり、返辞をどうすれば障りなく聞こえるであろうと考えられるのであった。事実をもう皆知っておられるらしい、これだけのことがすでにわかっている上で、探りにかかられては何も何も暴露してしまうはずである、隠してはかえって迷惑が起こるであろうという結論を僧都は得て、
「どういうことでこんなことが起こりましたかと、昨年来不思議にばかり思われていました方のことかと思われます」
 と言い、
「小野の母と妹の尼が初瀬寺に願がございまして参詣いたしました帰りに宇治の院という所に休んでおります…

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