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唐模様
からもよう
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「鏡花全集 巻二十七」 岩波書店
1942(昭和17)年10月20日
入力者門田裕志
校正者川山隆
公開 / 更新2011-09-09 / 2014-09-16
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

麗姫

 惟ふに、描ける美人は、活ける醜女よりも可也。傳へ聞く、漢の武帝の宮人麗娟、年はじめて十四。玉の膚艷やかにして皓く、且つ澤ふ。たきもしめざる蘭麝おのづから薫りて、其の行くや[#挿絵]蝶相飛べり。蒲柳纖弱、羅綺にだも勝へ難し。麗娟常に身の何處にも瓔珞を挂くるを好まず。これ袂を拂ふに當りて、其の柔かなる膚に珠の觸れて、痕を留めむことを恐れてなり。知るべし、今の世に徒に指環の多きを欲すると、聊か其の抱負を異にするものあることを。
 麗娟宮中に歌ふ時は、當代の才人李延年ありて是に和す。かの長生殿裡日月のおそき處、ともに[#挿絵]風の曲を唱するに當りてや、庭前颯と風興り、花ひら/\と飜ること、恰も霏々として雪の散るが如くなりしとぞ。
 此の姫また毎に琥珀を以て佩として、襲衣の裡に人知れず包みて緊む。立居其の度になよやかなる玉の骨、一つ/\琴の絲の如く微妙の響を作して、聞くものの血を刺し、肉を碎かしめき。
 女子粧はば寧ろ恁の如きを以て會心の事とせん。美顏術に到りては抑々末也。

勇將

 同じ時、賈雍將軍は蒼梧の人、豫章の太守として國の境を出で、夷賊の寇するを討じて戰に勝たず。遂に蠻軍のために殺され頭を奪はる。
 見よ、頭なき其の骸、金鎧一縮して戟を横へ、片手を擧げつゝ馬に跨り、砂煙を拂つてトツ/\と陣に還る。陣中豈驚かざらんや。頭あるもの腰を拔かして、ぺた/\と成つて[#挿絵]目して之を見れば、頭なき將軍の胴、屹然として馬上にあり。胸の中より聲を放つて、叫んで曰く、無念なり、戰利あらず、敵のために傷はれぬ。やあ、方々、吾が頭あると頭なきと何れが佳きや。時に賈雍が從卒、おい/\と泣いて告して曰く、頭あるこそ佳く候へ。言ふに從うて、將軍の屍血を噴いて馬より墜つ。
 勇將も傑僧も亦同じ。むかし行簡禪師は天台智大師の徒弟たり。或時、群盜に遇うて首を斬らる。禪師、斬られたる其の首を我手に張子の面の如く捧げて、チヨンと、わけもなしに項のよき處に乘せて、大手を擴げ、逃ぐる數十の賊を追うて健なること鷲の如し。尋で瘡癒えて死せずと云ふ。壯なる哉、人々。

愁粧

 むかし宋の武帝の女、壽陽麗姫、庭園を歩する時梅の花散りて一片其の顏に懸る。其の俤また較ふべきものなかりしより、當時の宮女皆爭つて輕粉を以て顏に白梅の花を描く、稱して梅花粧と云ふ。
 隋の文帝の宮中には、桃花の粧あり。其の趣相似たるもの也。皆色を衒ひ寵を售りて、君が意を傾けんとする所以、敢て歎美すべきにあらずと雖も、然れども其の志や可憐也。
 司馬相如が妻、卓文君は、眉を畫きて翠なること恰も遠山の霞める如し、名づけて遠山の眉と云ふ。魏の武帝の宮人は眉を調ふるに青黛を以つてす、いづれも粧ふに不可とせず。然るに南方の文帝、元嘉の年中、京洛の婦女子、皆悉く愁眉、泣粧、墮馬髻、折要歩、齲齒笑をなし、貴賤、尊卑、互に其の及ばざ…

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