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鑑定
かんてい
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「鏡花全集 巻二十七」 岩波書店
1942(昭和17)年10月20日
入力者門田裕志
校正者川山隆
公開 / 更新2011-09-09 / 2014-09-16
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 牛屋の手間取、牛切りの若いもの、一婦を娶る、と云ふのがはじまり。漸と女房にありついたは見つけものであるが、其の婦(奇醜)とある。たゞ醜いのさへ、奇醜は弱つた、何も醜を奇がるに當らぬ。
 本文に謂つて曰く、蓬髮歴齒睇鼻深目、お互に熟字でだけお知己の、沈魚落雁閉月羞花の裏を行つて、これぢや縮毛の亂杭齒、鼻ひしやげの、どんぐり目で、面疱が一面、いや、其の色の黒い事、ばかりで無い。肩が頸より高く聳えて、俗に引傾りと云ふ代物、青ン膨れの腹大なる瓜の如しで、一尺餘りの棚ツ尻、剩へ跛は奈何。
 これが又大のおめかしと來て、當世風の廂髮、白粉をべた/\塗る。見るもの、莫不辟易。豈それ辟易せざらんと欲するも得んや。
 而して、而してである。件の牛切、朝から閉籠つて、友達づきあひも碌にせぬ。
 一日、茫と成つて、田圃の川で水を呑んで居る處を、見懸けた村の若いものが、ドンと一ツ肩をくらはすと、挫げたやうにのめらうとする。慌てて、頸首を引掴んで、
「生きてるかい、」
「へゝゝ。」
「確乎しろ。」
「へゝゝ、おめでたう、へゝゝへゝ。」
「可い加減にしねえな。おい、串戲ぢやねえ。お前の前だがね、惡女の深情つてのを通越して居るから、鬼に喰はれやしねえかツて、皆友達が案じて居るんだ。お前の前だがね、おい、よく辛抱して居るぢやねえか。」
「へゝゝ。」
「あれ、矢張り恐悦して居ら、何うかしてるんぢやねえかい。」
「私も、はあ、何うかして居るでなからうかと思ふだよ。聞いてくんろさ。女房がと云ふと、あの容色だ。まあ、へい、何たら因縁で一所に成つたづら、と斷念めて、目を押瞑つた祝言と思へ。」
「うむ、思ふよ。友だちが察して居るよ。」
「處がだあ、へゝゝ、其の晩からお前、燈を暗くすると、ふつと婦の身體へ月明がさしたやうに成つて、第一な、色が眞白く成るのに、目が覺るだ。」
 於稀帷中微燈閃鑠之際則殊見麗人である。
「蛾眉巧笑※頬多姿[#「搖のつくり+頁」の「缶」に代えて「廾」、U+982F、104-6]、纖腰一握肌理細膩。」
 と一息に言つて、ニヤ/\。
「おまけにお前、小屋一杯、蘭麝の香が芬とする。其の美しい事と云つたら、不啻毛[#挿絵]飛燕。」
 と言ふ、牛切りの媽々をたとへもあらうに、毛[#挿絵]飛燕も凄じい、僭上の到りであるが、何も別に美婦を讚めるに遠慮は要らぬ。其處で、
 不禁神骨之倶解也。である。此は些と恐しい。
「私も頓と解せねえだ、處で、當人の婦に尋ねた。」
「女房は怒つたらう、」
「何ちゆツてな。」
「だつてお前、お前の前だが、あの顏をつかめえて、牛切小町なんて、お前、怒らうぢやねえか。」
「うんね、怒らねえ。」
「はてな。」
 とばかりに、苦笑。
「怒らねえだ。が、何もはあ、自分では知らねえちゆうだ。私も、あれよ、念のために、燈をくわんと明るくして、恁う照らかいて見た。」
「氣障な…

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