えあ草紙・青空図書館 - 作品カード


広告

ファウスト
ファウスト
著者
翻訳者森 鴎外
文字遣い新字新仮名
底本 「ファウスト 森鴎外全集11」 ちくま文庫、筑摩書房
1996(平成8)年2月22日
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-12-24 / 2014-09-16
長さの目安約 549 ページ(500字/頁で計算)
えあ草紙で読む
HTMLページで読む

広告

find Kindle 楽天Kobo Playブックス

find Audible YouTube

本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ作品レビュー

青空文庫の図書カードを開く

find えあ草紙・青空図書館に戻る

楽天Koboで表紙を検索

広告

本文より

薦むる詞


昔我が濁れる目に夙く浮びしことある
よろめける姿どもよ。再び我前に近づき来たるよ。
いでや、こたびはしも汝達を捉へんことを試みんか。
我心猶そのかみの夢を懐かしみすと覚ゆや。
汝達我に薄る。さらば好し。靄と霧との中より

我身のめぐりに浮び出でて、さながらに立ち振舞へかし。
汝達の列のめぐりに漂へる、奇しき息に、
我胸は若やかに揺らるゝ心地す。

楽しかりし日のくさ/″\の象を汝達は齎せり。
さて許多のめでたき影ども浮び出づ。
10
半ば忘られぬる古き物語の如く、
初恋も始ての友情も諸共に立ち現る。
歎は新になりぬ。訴は我世の
蜘手なし迷へる歩を繰り返す。
さて幸に欺かれて、美しかりぬべき時を失ひ、
15
我に先立ちて去にし善き人等の名を呼ぶ。

我が初の数[#挿絵]を歌ひて聞せし霊等は
後の数[#挿絵]をば聞かじ。
親しかりし団欒は散けぬ。
あはれ、始て聞きつる反響は消えぬ。
20
我歎は知らぬ群の耳に入る。
その群の褒むる声さへ我心を傷ましむ。
かつて我歌を楽み聞きし誰彼
猶世にありとも、そは今所々に散りて流離ひをれり。

昔あこがれし、静けく、厳しき霊の国をば
25
久しく忘れたりしに、その係恋に我また襲はる。
我が囁く曲は、アイオルスの箏の如く、
定かならぬ音をなして漂へり。
我慄に襲はる。涙相踵いで堕つ。
厳しき心和み軟げるを覚ゆ。
30
今我が持たる物遠き処にあるかと見えて、
消え失せつる物、我がためには、現前せる姿になれり。
[#改ページ]

劇場にての前戯


座長。座附詩人。道化方。
    座長
これまで度々難儀に逢った時も、
わたくしの手助になってくれられた君方二人だ。
こん度の企がこの独逸国でどの位成功するだろうか、
35
一つ君方の見込が聞きたいのだがね。
殊に見物は自分達が楽んで、人にも楽ませようとしているのだから、
わたくしもなるたけ見物の気に入るようにしたいのです。
もう小屋も掛かり、舞台も出来ていて、
みんながさあ、これからがお慰だと待っている。
40
誰も彼もゆったりと腰を落ち着けて、眉毛を吊るし上げて、
さあ、どうぞびっくりするような目に逢わせて貰いたいと思っている。
わたくしだって、どうすれば大勢の気に入ると云うことは知っている。
しかしこん度程どうして好いか分からないことはないのです。
何も見物が最善のものに慣れていると云うのではない。
45
ですが、兎に角いろんな物を恐ろしく沢山読んでいるのですな。
何もかも新らしく見えて、そして意義があって
人の気に入るようにするには、どうしたら好いでしょう。
なぜそう云うかと云うと、わたくしは一番大当りがさせて見たい。
見物が人波を打ってこの小屋へ寄せて来て、
50
狭い恵の門口を通ろうとして、何度押し戻されても
また力一ぱいに押し押しして、
まだ明るいうちに、…

えあ草紙で読む

ライフメディアへ登録

Koboユーザー必見!
楽天スーパーポイントとは別に
価格の5%がポイントに!

find えあ草紙・青空図書館に戻る

© 2016 Sato Kazuhiko