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海の少年
うみのしょうねん
作品ID50976
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 1」 講談社
1976(昭和51)年11月10日
初出「少年文庫」1906(明治39)年11月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者ぷろぼの青空工作員チーム校正班
公開 / 更新2012-01-05 / 2014-09-16
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 今年の夏休みに、正雄さんは、母さんや姉さんに連れられて、江の島の別荘へ避暑にまいりました。正雄さんは海が珍しいので、毎日朝から晩まで、海辺へ出ては、美しい貝がらや、小石などを拾い集めて、それをたもとに入れて、重くなったのをかかえて家へ帰ると、姉や妹に見せて、だんだんたくさんにたまるのを見て、東京へのおみやげにしようと喜んでいました。
 ある日のこと、正雄さんは、ただ一人で海の方から吹いてくる涼しい風に吹かれながら波打ちぎわを、あちらこちらと小石や貝がらを見つけながら歩いて、
「見つかれしょ、見つかれしょ、己の目に見つかれしょ。真珠の貝がら見つかれしょ。」といいました。
 青々とした海には白帆の影が、白鳥の飛んでいるように見えて、それはそれはいいお天気でありました。
 そのとき、あちらの岩の上に空色の着物を着た、自分と同じい年ごろの十二、三歳の子供が、立っていて、こっちを見て手招ぎをしていました。正雄さんは、さっそくそのそばへ駆け寄って、
「だれだい君は、やはり江の島へきているのかい。僕といっしょに遊ぼうじゃないか。」といいました。
 空色の着物を着た子供はにっこり笑って、
「僕も独りで、つまらないから、君といっしょに遊ぼうと思って呼んだのさ。」
「じゃ、二人で仲よく遊ぼうよ。」と、正雄さんは、その岩の下に立って見上げました。
「君、この岩の上へあがりたまえな。」
 しかし、正雄さんにはあまり高くてのぼられないので、
「僕には上がれないよ。」と悲しそうにいいました。すると、
「そんなら僕が下りよう。」と、ひらひらと飛び下りて、さあ、いっしょに歌って遊ぼうよと、二人は学校でおそわった唱歌などを声をそろえて歌ったのであります。そして二人は、べにがにや、美しい貝がらや、白い小石などを拾って、晩方までおもしろく遊んでいました。いつしか夕暮れ方になりますと、正雄さんは、
「もう家へ帰ろう、お母さんが待っていなさるから。」と、家の方へ帰りかけますと、
「僕も、もう帰るよ。じゃ君、また明日いっしょに遊ぼう。さようなら。」といって、空色の着物を着た子供は例の高い岩の上へ、つるつるとはい上がりましたが、はやその姿は見えませんでした。
 明くる日の昼ごろ、正雄さんは、海辺へいってみますと、いつのまにやら、昨日見た空色の着物を着た子供がきていまして、
「や、失敬っ。」と声をかけて駆け寄り、
「君にこれをやろうと思って拾ってきたよ。」と、それはそれはきれいな真珠や、さんごや、めのうなどをたくさんにくれたのであります。正雄さんは喜んで、その日家へ帰って、お母さんやお父さんに見せますと、ご両親さまは、たいそうびっくりなさって、
「正雄や、だれからこんなけっこうなものをおもらいだ。え、その子供はどこの子供で、名はなんといいます。」と、きびしく問われたのであります。正雄さんは、
「どこの子…

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