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雪の国と太郎
ゆきのくにとたろう
作品ID50986
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 1」 講談社
1976(昭和51)年11月10日
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者ぷろぼの青空工作員チーム校正班
公開 / 更新2012-01-11 / 2014-09-16
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

はるかなそりの跡

 この村には七つ八つから十一、二の子供が五、六人もいましたけれど、だれも隣村の太郎にかなうものはありませんでした。太郎は、まだやっと十二ばかりでした。けれど力が強くて、年のわりあいに体が大きくて手足が太くて、目が大きく円くて、くるくるとちょうど、わしの眸のように黒くて光っていました。
 だから、この村の子供はだれも太郎とけんかをして勝ち得るものはありません。みな太郎をおそれていました。
「今日君は太郎を見たかい。」
と、甲がいいました。
「僕は見たよ。」
と、丙が答えました。
「なにもしなかったかい。」
と、甲が丙を見て問いました。
「遠くだったから、なんにもしなかったよ。僕は急いで帰ってきたよ。」
と、丙が答えました。
「明日も学校へゆくときには、みないっしょにゆこうよね。そうすれば太郎がきたってだいじょうぶじゃないか。」
と、乙がいいだしました。
「しかし君、太郎は強いんだよ。」
と、丙がいいました。
「だってみんなでかかれば太郎一人なんか負かしてしまうね、僕は足を持ってやる。」
と、乙が力んでいいました。
「僕はぶってやるよ。」
 丙がいいました。
「僕は雪の中へうずめてやろう。」
 甲がいいました。そしてみんなで声をたてて笑いました。
 その明くる日になると雪が降っていました。朝、甲・乙・丙・丁の四人の子供は、たがいに誘い合って学校へ出かけました。路ばたのすぎの木の枝は雪がたまってたわんでいます。そして、その下を通るときには、くぐってゆかなければなりません。寺の横を通ったときには、もう雪が地の上にますます積もって墓石の頭がわずかばかりしか見えていませんでした。子供らは自分の村をすこし離れたところに学校がある。そこへ歩いてゆくのでした。村を出ると、広々とした野原がありました。野原は一面に見渡すかぎりも雪にうずまって真っ白に見えました。そしてそこへ出ると、そりの跡も風にかき消されて、あるかなしかにしか見えなく、寒い北風が顔や手や足を吹いたのでした。

君は僕の家来

 ようやくその野原を通りこして、かなたの森の中から学校の屋根が見える村はずれにさしかかりますと、いままでどこかに隠れていた太郎が飛び出してきて、まっさきになって歩いてきた乙に突きあたりました。乙は不意をくらってたじたじとなって雪の中に倒れてしまいました。
「僕はなんにもしないじゃないか。」
と、乙は雪の中に倒れながら、うらめしそうに太郎の顔を見上げていいました。太郎はじっと雪の中に倒れて自分を見上げている乙を見下ろしながら、
「なんで、先だって僕が遊ぼうといって呼んだときにこなかったのだい。君は僕の家来になるといったんだろう。」
と、太郎はくるくるした黒目を光らしていいました。
 その間に、甲・丙・丁などは、すきをうかがって逃げ出して早く学校の門へ入ってしまおうと、あちら…

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