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眠い町
ねむいまち
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 1」 講談社
1976(昭和51)年11月10日
初出「日本少年」1914(大正3)年5月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者ぷろぼの青空工作員チーム校正班
公開 / 更新2012-01-08 / 2014-09-16
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 この少年は、名を知られなかった。私は仮にケーと名づけておきます。
 ケーがこの世界を旅行したことがありました。ある日、彼は不思議な町にきました。この町は「眠い町」という名がついておりました。見ると、なんとなく活気がない。また音ひとつ聞こえてこない寂然とした町であります。また建物といっては、いずれも古びていて、壊れたところも修繕するではなく、烟ひとつ上がっているのが見えません。それは工場などがひとつもないからでありました。
 町はだらだらとして、平地の上に横たわっているばかりであります。しかるに、どうしてこの町を「眠い町」というかといいますと、だれでもこの町を通ったものは、不思議なことには、しぜんと体が疲れてきて眠くなるからでありました。それで日に幾人となくこの町を通る旅人が、みなこの町にきかかると、急に体に疲れを覚えて眠くなりますので、町はずれの木かげの下や、もしくは町の中にある石の上に腰を下ろして、しばらく休もうといたしまするうちに、まるで深い深い穴の中にでも引き込まれるように眠くなって、つい知らず知らず眠ってしまいます。
 ようやく目がさめた時分には、もういつしか日が暮れかかっているので、驚いて起ち上がって道を急ぐのでありました。この話がだれからだれに伝わるとなく広がって、旅する人々はこの町を通ることをおそれました。そして、わざわざこの町を通ることを避けて、ほかのほうを遠まわりをしてゆくものもありました。
 ケーは、人々のおそれるこの「眠い町」が見たかったのです。人の恐ろしがる町へいってみたいものだ。己ばかりはけっして眠くなったとて、我慢をして眠りはしないと心に決めて、好奇心の誘うままに、その「眠い町」の方を指して歩いてきました。



 なるほどこの町にきてみると、それは人々のいったように気味の悪い町でありました。音ひとつ聞こえるではなく、寂然として昼間も夜のようでありました。また烟ひとつ上がっているではなく、なにひとつ見るようなものはありません。どの家も戸を閉めきっています。まるで町全体が、ちょうど死んだもののように静かでありました。
 ケーは壊れかかった黄色な土のへいについて歩いたり、破れた戸のすきまから中のようすをのぞいたりしました。けれど、家の中には人が住んでいるのか、それともだれも住んでいないのかわからないほど静かでありました。たまたまやせた犬が、どこからきたものか、ひょろひょろとした歩みつきで町の中をうろついているのを見ました。ケーは、この犬はきっと旅人が連れてきた犬であろう、それがこの町の中で主人を見失って、こうしてうろついているのであろうと思いました。ケーはこうして、この町の中を探検していますうちに、いつともなしに体が疲れてきました。
「ははあ、なんだか疲れて、眠くなってきたぞ。ここで眠っちゃならない。我慢をしていなくちゃなら…

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