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古代国語の音韻に就いて
こだいこくごのおんいんについて
作品ID510
著者橋本 進吉
文字遣い新字新仮名
底本 「古代国語の音韻に就いて 他二篇」 岩波文庫、岩波書店
1980(昭和55)年6月16日
入力者久保あきら
校正者久保あきら、POKEPEEK2011
公開 / 更新1999-11-09 / 2014-09-17
長さの目安約 121 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 我が国の古典を読むについて何かその基礎になるようなことについて話してもらいたいという御依頼でございました。それで、我が国の古代の音韻についてお話申上げたいと思います。もっともこれについては、私の研究もまだ最後の処まで行き着いていないのでございまして、自分でも甚だ不満足ではございますが、しかしこれまで私が調べました範囲内でも、古典をお読みになるような場合に多少参考になるようなことは申上げることが出来ようかと思います。
 古代の音韻と題しておきましたが、現今の言語研究の上に「音韻」と「音声」とを区別して使うことがございますけれども、先ずこのお話では、格別そういう厳密な区別を設けないで、ただ音韻と言っておいたので、つまり言語の音のことでございます。
 言語の音は、現在の言語であれば直接我々が耳に聴いて判るものでありますが、昔の言語になりますと、昔の人が話していたのを我々は直接に耳に聴くことは出来ませぬ。今の言語であれば、直接耳に聞える音を対象として研究することが出来ますが、昔の言語でありますと、自然、言語の音を文字で写したもの、すなわち音を代表する文字に基づいて研究するより仕方がない訳であります。
 全体この言語の音を研究するについて先ず第一に大切なことは、どれだけの違った音でその言語が組立てられているかということ、つまりその言語にはどれだけの違った音を用いるかということであります。我々が口で発することの出来る音は実に無数であります。随分色々の音を発することが出来る訳でありますが、言語としては、その中の幾つかの或るきまった音だけを用いその他のものは用いないというようにきまっているのであります。これは我々が外国語を学修する場合によく解るのでありますが、例えば外国語ではtituという音は何でもなく幾らでも用います。こういう音は外国語では普通の音ですが、日本語では用いないのであります。そういう風に言語の違うによって或る音は或る国で使うけれども或る国の言語では使わないという風の違いがあるのであります。これは単に、相異なる言語、日本語と英語というような全く違った言語の間にそういう違いがあるばかりでなく、同じ言語においてもやはり時代によって違いがある。すなわち古い時代の言語と新しい時代の言語の間には、昔用いておった音が後になると用いられなくなり、また昔用いられなかった音が後になると用いられるようになるというように、色々変って来るのであります。
 そういう違った音が幾つあるか、言いかえれば幾つの違った音を用いるかということが、或る一つの言語を研究する場合に一番大切な事柄であります。一般に、或る時代の言語に用いられる違った音の数はちゃんと定まっているのであります。ごく粗雑な考え方でありますが、日本語を書くのに仮名四十七字、それに「ん」が加わって四十八字、それだけでもともか…

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