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ろうそくと貝がら
ろうそくとかいがら
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 1」 講談社
1976(昭和51)年11月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-10-20 / 2014-09-16
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 海の近くに一軒の家がありました。家には母親と娘とがさびしく暮らしていました。けれど二人は働いて、どうにかその日を暮らしてゆくことができました。
 父親は二年前に、海へ漁に出かけたきり帰ってきませんでした。その当座、たいへんに海が荒れて、難船が多かったといいますから、きっと父親も、その中に入っているのだろうと悲しみ嘆きました。
 けれど、また、遠いところへ風のために吹きつけられて、父親はまだ生き残っていて、いつか帰ってくるのではないかというような気もしまして、二人は、おりおり海の方をながめて、あてなき思いにふけっていました。
「お母さん、お父さんは死んでしまわれたんでしょうか。」と、娘は目に涙をためて、母親に問いますと、
「いまだにたよりがないところをみると、きっとそうかもしれない。」と、母親も、さびしそうな顔つきをして答えました。
「ほんとうに、お父さんが生きていて帰ってきてくだされたら、どんなにうれしいかしれない。」と、娘はいいました。
「生きていなされば、きっと帰ってきなさるから、そう心配せずに待っていたほうがいい。」と、母親は娘をなぐさめました。
 娘は昼間仕事に出て、日が暮れかかると家に帰ってきました。窓を開けると、かなたに青い海が見えました。静かに、海のかなたが、赤く夕焼けがして暮れてゆくときもあります。また、灰色に曇ったまま暮れてゆくときもあります。またあるときは、風が吹いて、海の上があわだって見えるときもありました。
 月のいい晩には、往来する船も、なんとなく安全に思われますが、海が怒って、真っ暗な、波音のすさまじいときには、どんなに航海をする船は難儀をしたかしれません。
 そんなとき、娘はきっと父親のことを思い出すのでありました。もし父親が、こんな嵐の強い晩に、海をこいで帰ってこられたなら、方角もわからないので、どんなにか難儀をなされるだろうと、こう考えると、娘はもはや、じっとしていることができませんでした。立ち上がって、窓からいっしんに沖の方を見つめていました。



 父親の行方がわからなくなってから、二人は、毎晩仏壇に燈火をあげて拝みました。
「お母さん、外はたいへんな風ですね。お父さんが、今夜あたり帰っておいでなさるなら、沖は荒れて真っ暗でどんなにお困りでしょうね。」と、娘はいいました。
「そんなことはないよ。こんな晩にどうしてお父さんが、あの船で帰っておいでなさるものか。そんなことを考えないほうがいいよ。」と、母親は答えました。
「だって、帰っておいでなさるかもしれないわ。わたしは、お父さんが見当のつくように、ろうそくの火を点してあげるわ。」と、娘はいって、窓ぎわに幾本となく、ろうそくに火をつけてならべました。
 なにしろ風が強いので、ろうそくの火は幾たびとなく消されました。けれど、娘は消えると、点け、消えると点けして、沖…

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