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北海の白鳥
ほっかいのはくちょう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 1」 講談社
1976(昭和51)年11月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-11-06 / 2014-09-16
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 昔、ある国に金持ちの王さまがありました。その御殿はたいそうりっぱなもので、ぜいたくのあらんかぎりを尽くしていました。支那の宝玉や、印度の更紗や、交趾の焼き物や、その他、南海の底から取れたさんごなどで飾られていました。そしてそのほか、古酒のつぼが並べられてあり、美しい女は、花のように御殿にいて王さまのお相手をして、琴や、笛や、妙なる鳴り物の音と朗らかな歌の声は、夜となく昼となく、雲間に洩れたのであります。
 王さまは、まったく幸福でありました。かつて、不幸ということをお知りにならなかったのです。ちょうどそのころ、東の国から薬売りが、「これは支那の昆崙山にあった、不老不死の薬でございます。」といって、献上したので、王さまはいままで、年をとり死をおそれていられたのに、幸い不思議な妙薬を得て、その憂いがなくなり、ますます幸福に日をお送りなされていました。なんでもその薬を奉ったものは、莫大のお金を頂いて、どこへかいってしまったそうであります。
 するとここに、怪しげなようすをしたものが、この国にさまよってきました。このものは、人間の運命を占って、行く末のことを語るのです。なんでもこのものの生国は西蔵だということでありますが、幾歳になるかわからないような人間でありました。脊は低く、目の光は、きらきらと光っていました。
 この占い者のうわさが王さまの耳に達しますと、さっそくお召しになりました。王さまは、にこにこ笑って、この怪しき男をごらんになったのです。そして、ご自身の運命をこのものに見てもらおうと仰せられたのです。
「どうじゃ、朕の運命を見てもらおう。朕ほど、しあわせのものは、またとこの世の中にあるまいと思うが。」と仰せられました。
 怪しげなようすをした、脊の低い占い者は、王さまの足もとに平伏していましたが、このとき、その黒い二つの目ばかりがきらきらとする顔を上げました。
「恐れ入りますが、しばらくご猶予を願います。」といって、大地にすわって深く念じ、長く瞑目していました。



 そのうちに日が暮れてしまいました。御殿の広い庭頭には、かがり火がたかれました。その炎の影は、この怪しの占い者を照らし、空を焦がすかと思われるばかりに紅く見えました。
 占い者は、じっと祈っていましたが、やがてその頭を上げて、占ったところを申しあげました。
「陛下は、これまで戦いに負けられたことがありません。なんでも思うままに、なしとげられてこられました。」と、占い者はいって、あるとき、王さまがわずかな兵で大軍を破られたこと、あるときは、ほとんど危うかったところを逃れられて逆に敵軍を陥れられたこと、あるときは、重い病気にかかられたのを、神術を使う巫女が現れて、祈祷してなおしたことなどを委細申しあげました。
「なるほど、それに相違がない。汝の占いは怖ろしいほどよく当たるようだ。それで…

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