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善いことをした喜び
よいことをしたよろこび
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 1」 講談社
1976(昭和51)年11月10日
初出「童話」1921(大正10)年1月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者江村秀之
公開 / 更新2014-01-31 / 2014-09-16
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 さよ子は、叔母さんからもらったおあしを大事に、赤い毛糸で編んだ財布の中に入れてしまっておきました。秋のお祭りがきたら、それでなにか好きなものを買おうと思っていました。
 もとよりたくさんのお金ではなかったのです。けれど、さよ子はそれを楽しみにして、ときどき机のひきだしの中から、赤い毛糸の財布を取り出しては、振ってみますと、中に銭がたがいに触れ合って、かわいらしい鳴き音をたてるのでありました。
 さよ子は、それでほおずきを買おうか、南京玉を買おうか、それともなにかおままんごとの道具を買おうかと、いろいろ空想にふけったのであります。すると、なんとなく、その日が待ち遠しかったのでありました。
 まことに、いい天気の日で、のら仕事の忙しかったときでありました。家々のものは、みんな外の圃に出ていて、家にいるものはほとんどありませんでした。
 家の前には、大きな銀杏樹がありました。その葉がしだいに色づいてきました。さよ子は壊れかかった石段に腰をかけて、雑誌を読んでいました。そのとき、同じように、隣のおばあさんが、やはり家の前に出て、日当たりのいい暖かな場所にむしろを敷いて、ひなたぼっこをしていました。
 おばあさんは、日ごろからたくさんなお金をためているといううわさがたっていました。けれど、おばあさんは、なかなかのけちんぼうで、めったにそのお金を出すということをしませんでした。
 おばあさんは、このごろ、ひまさえあればお金のことを考えていました。自分が死んでしまったら、この金をどうしようかと思いました。これまでいっしょうけんめいでためた金を、他人にやってしまうのは、まことに惜しいことだと思いました。せがれにも、嫁にも、この金はやれない、みんな自分が死んでゆくときには、持ってゆかなければならぬと思いました。
「いったい、いくらあるだろう。今日は、せがれも嫁も留守だから、ひとつ勘定してみよう。」と、おばあさんは、だれもいないのを幸いに、懐から大きな財布を出して、口を開いて、楽しみながら算えはじめたのであります。
「なかなかたくさんある。これをせがれめに見つけられたら大事だ。しかし、せがれも嫁も、まだ帰ってくるはずがないから安心だ。」と、おばあさんは独り言をしながら、しわの寄ったてのひらに銭を並べて、細い指先で勘定しては、前垂れの中に移していました。そして、すっかり勘定してしまったら、それを財布の中にしまうつもりでおりました。
 ほんとうに暖かな、よく晴れた空に太陽が燃えて、風すらない秋日和でありました。大きな銀杏樹の上で、小鳥が鳴くほかに、だれもおばあさんを脅かすものはなかったのです。
「おばあさん。」と、雑誌に読み飽きたさよ子は、あちらの石段から、こちらを向いて、さびしいので呼びかけました。
 もし、おばあさんが機嫌がよかったら、そばへいって、いま読んだおもしろいおとぎ…

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