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殿さまの茶わん
とのさまのちゃわん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 1」 講談社
1976(昭和51)年11月10日
初出「婦人公論」1921(大正10)年1月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-11-03 / 2014-09-16
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 昔、ある国に有名な陶器師がありました。代々陶器を焼いて、その家の品といえば、遠い他国にまで名が響いていたのであります。代々の主人は、山から出る土を吟味いたしました。また、いい絵かきを雇いました。また、たくさんの職人を雇いました。
 花びんや、茶わんや、さらや、いろいろのものを造りました。旅人は、その国に入りますと、いずれも、この陶器店をたずねぬほどのものはなかったのです。そして、さっそく、その店にまいりました。
「ああ、なんというりっぱなさらだろう。また、茶わんだろう……。」といって、それを見て感嘆いたしました。
「これを土産に買っていこう。」と、旅人は、いずれも、花びんか、さらか、茶わんを買ってゆくのでありました。そして、この店の陶器は、船に乗せられて他国へもゆきました。
 ある日のことでございます。身分の高いお役人が、店頭にお見えになりました。お役人は主人を呼び出されて、陶器を子細に見られまして、
「なるほど、上手に焼いてあるとみえて、いずれも軽く、しかも手際よく薄手にできている。これならば、こちらに命令をしてもさしつかえあるまい。じつは、殿さまのご使用あそばされる茶わんを、念に念を入れて造ってもらいたい。それがために出向いたのだ。」と、お役人は申されました。
 陶器店の主人は、正直な男でありまして、恐れ入りました。
「できるだけ念に念を入れて造ります。まことにこの上の名誉はございませんしだいです。」といって、お礼を申しあげました。
 役人は立ち帰りました。その後で、主人は店のもの全部を集めて、事のしだいを告げ、
「殿さまのお茶わんを造るように命ぜられるなんて、こんな名誉のことはない。おまえがたも精いっぱいに、これまでにない上等な品物を造ってくれなければならない。軽い、薄手のがいいとお役人さまも申されたが、陶器はそれがほんとうなんだ。」と、主人は、いろいろのことを注意しました。
 それから幾日かかかって、殿さまのお茶わんができあがりました。また、いつかのお役人が、店頭へきました。
「殿さまの茶わんは、まだできないか。」と、役人はいいました。
「今日にも、持って上がろうと思っていたのでございます。たびたびお出かけを願って、まことに恐縮の至りにぞんじます。」と、主人はいいました。
「さだめし、軽く、薄手にできたであろう。」と、役人はいいました。
「これでございます。」と、主人は、役人にお目にかけました。
 それは、軽い、薄手の上等な茶わんでありました。茶わんの地は真っ白で、すきとおるようでございました。そして、それに殿さまの御紋がついていました。
「なるほど、これは上等の品だ。なかなかいい音がする。」といって、お役人は、茶わんを掌の上に乗せて、つめではじいて見ていました。
「もう、これより軽い、薄手にはできないのでございます。」と、主人は、うやうやしく頭を…

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