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金の魚
きんのうお
作品ID51014
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 1」 講談社
1976(昭和51)年11月10日
初出「面白倶楽部」1921(大正10)年1月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者江村秀之
公開 / 更新2014-01-28 / 2014-09-16
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 昔、あるところに金持ちがありまして、なんの不自由もなく暮らしていましたが、ふと病気にかかりました。
 世間に、その名の聞こえたほどの大金持ちでありましたから、いい医者という医者は、いずれも一度は呼んで、みてもらいました。けれど、どの医者にも、その病気の名がわかりませんばかりでなく、それをなおす見込みすらつきませんでした。そのうちに金持ちはだんだん体が悪くなるばかりでありました。
 そのとき、旅からきた上手な占い者がありました。その男は、過去いっさいのことをあてたばかりでなく、未来のこともいっさいを秘術によってあてたのでありました。
 金持ちは、せめてもの思い出に、自分の不思議な病気についてみてもらうことにいたしました。占い者は、金持ちの病気を占って、いいますのには、
「こんな病気は、またと世間にあるような病気でない。どこが悪いということなく、だんだん血の気が体からなくなってしまって、そして、ばたりと倒れて死んでしまうのだ。この病気は、どんな名医にかかってもなおらない。ただ一つこの病気のなおる薬がある。それは、めったに獲られるものでないが、金色の魚を食べるとなおってしまう。この魚は、まれに河の中にすんでいるものだ。」と、その占い者はいいました。
 金持ちは、金色の魚を食べれば、この病気がなおるということを聞きますと、絶望のうちにかすかな希望を認めたのであります。金はいくらでもあるから、金の力で、この金色の魚を探しだそうと思ったのであります。
 そこで、国中に、
「金色の魚を捕らえてくれたものには、千両のお礼をする。」といいふらしたのであります。
 世間の人々は、このうわさを耳にすると大さわぎでありました。そこにもここにも、寄り集まって金色の魚の話をしたのであります。
「金色の魚なんてあるものかい。」と、甲がいいますと、
「それは、あるそうだ。あるとき、女が河で菜っ葉を洗っていると、目の前に金色の魚が浮いて沈んだことがあるそうだ。そればかりでない、昔から、幾人も金色の魚を見たものがあるということだ。」と、乙がいいました。
「五、六年前も、この町のはずれを流れている河で金色の魚を見たものがあるそうだ。」と、丙がいいました。
 そこで、金色の魚はかならずしもいないわけではないというので、町の人々はもちろん、村の人々までみな金色の魚を捕らえて金持ちのもとへ持ってゆこうと思わないものはありませんでした。
 河辺には、毎日幾百人ということなく、無数の人々が両岸に並んで釣りをしました。そして、金色の魚を自分が釣ろうと思ったのでありました。
 毎日、毎日、中には自分の仕事まで休んで河にやってきて糸を垂れているものもありました。
「なに、仕事ぐらい休んでも、金色の魚を釣ったら千両になるんだ。そうすれば、一生なにもせんで楽に暮らしてゆけるから。」というのでありました。
 金持ち…

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