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宝石商
ほうせきしょう
作品ID51022
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「現代」1921(大正10)年5月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者富田倫生
公開 / 更新2012-07-21 / 2014-09-16
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 昔、北の寒い国に、珍しい宝石が、海からも、また山からもいろいろたくさんに取れました。
 それは、北の国にばかりあって、南の方の国にはなかったのであります。南の方の暖かな国は富んでいましたから、この珍しい宝石を持って売りにゆけば、たいそう金がもうかったのでありました。
 けれど、質樸な北の方の国の人々は、そのことを知りませんでした。また、遠い南の国へゆくにしても、幾日も幾日も旅をしなければならない。船に乗らなければならないし、また、車にも、馬にも乗らなければならなくて、容易のことではなかったのであります。
 ここに、智慧のある男がありました。その男は、北の国のものでもなければ、また、南の国のものでもなかった。どこのものとも知れなかったのであります。
 この男は、北の国へいって、宝石を集めてそれを南の国へ持ってゆけば、たくさんの金のもうかることだけは、よく知っていました。そのうえ、男は、よく宝石を見分けるだけの目を持っていました。
 男は、ひともうけしようと思って、北の国へまいりました。北の国は、まだよく開けていなかったのです。高いけわしい山が重なりあって、その頭を青い空の下にそろえています。また、紺碧の海は、黒みを含んでいます。そして高い波が絶えず岸に打ち寄せているのでありました。
 宝石商は、今日はここの港、明日は、かしこの町というふうに歩きまわって、その町の石や、貝や、金属などを商っている店に立ち寄っては、珍しい品が見つからないものかと目をさらにして選り分けていたのであります。
 火の見やぐらの立っている町もありました。また、荷馬車がガラガラと夕暮れ方、浜の方へ帰ってゆくのにも出あいました。
 男は、珍しい品が見つかると、心の中では飛びたつほどにうれしがりましたが、けっしてそのことを顔色には現しませんでした。かえって、口先では、
「こんなものは、いくらもある、つまらない石じゃないか。」といって、くさしたのです。
 店のものは、よく知りませんから、そうかと思いましたが、めったに見たことのない、珍しい美しい石だと思っていますものですから、
「そんなことはありますまい。私どもは、長年石を探して歩いていますが、こういう珍しい石はこれまで、あまり手に入れたことがないのです。」と、店のものは答えました。
 すると、智慧のある宝石商は、わざと嘲笑いました。
「それは、おまえさんが、あまり世間を知らんからだ。この山を越えて、もっと遠い、遠い国の方までいってみれば、こんな石は、けっして珍しくない。もっと美しい石がいくらもあります。」
と、旅の宝石商はいいました。
 店のものは、それはそうかもしれないと思いました。そして、赤い石や、青い石や、また海の底から取れた緑色の石や、山から取れた紫色の石などを安くその男に売ってしまったのです。
 どこへいっても、その男は、口先が上手で…

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