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北の国のはなし
きたのくにのはなし |
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作品ID | 51023 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 2」 講談社 1976(昭和51)年12月10日 |
初出 | 「赤い鳥」1921(大正10)年4月 |
入力者 | ぷろぼの青空工作員チーム入力班 |
校正者 | 富田倫生 |
公開 / 更新 | 2012-07-11 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 6 ページ(500字/頁で計算) |
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あるところにぜいたくな人間が住んでいました。時節をかまわずに、なんでも食べたくなると、人々を方々に走らしてそれを求めたのであります。
「いくら金がかかってもいいから、さがしてこい。」と、その人はいいました。
ある日のこと、その人は、川魚が食べたいから、釣ってきてくれと、下男にいいつけました。
下男は当惑をしました。外を見ると真っ白に雪が積もっていました。どこを見ましても、一面に雪が地を隠していました。その村は、北の寒い国のさびしいところであったからであります。
しかし、いいだしたうえは、なんでもそのことを通す主人の気質をよく知っていましたので、彼は、急に返事をせずに思案をしていました。
「なんで、そんなに考え込んでいるか。そのかわり、もしおまえが魚を釣ってきたら、お金をたくさんやる。またおまえのほしいというものはなんでもやろう。そうすれば、おまえは、家を持って、こんどは主人になることができる。」と、主人はいいました。
下男は、そう聞くとまた喜ばずにはいられませんでした。お金をもらい、品物をもらって家を持つことができたら、どんなにしあわせなことだろう。これが夏か、春か、秋のことであったら、なんでもないこと、自分はたのしんで釣りをするだろう。ただ、いま時分のような冬であっては、どうすることもできない。しかし、できないことをするからこそ、そんなにほうびももらわれるのだと考えましたから、
「そんなら、釣りに出かけてきます。」と、下男は申しました。
「一匹でも釣れたら帰ってこい。釣れなければ帰ってきてはならぬぞ。」と、主人はいいました。
下男は、いいつけをきいて家を出かけました。その前に、彼は、いまごろどこをほってもみみずの見つからないことを知っていましたから、飯粒を餌にして釣る考えで、自分の食べる握り飯をその分に大きく造って持ってゆきました。
小川は、みんな雪にうずまっていました。また池にもいっぱい雪が積もっていて、どこが田やら、圃やら、また流れであるやらわからなかったほどであります。それに、寒さは強くて、水が凍っていました。
下男は、寒い風に吹かれながら、あちら、こちらをさまよっていましたが、やっと一筋の川らしいところに出ましたので、雪を分けて、わずかばかり現れている流れの上に糸を垂れていました。
「どうか、早く釣れるように。」と、下男は心で祈っていました。
そのとき、一羽の鳥が飛んできて、あちらの森の中に降りました。なに鳥だろうと、下男はその方を見ていると、ズドンといって鉄砲を打つ音が聞こえました。すると、さっき見た鳥は飛びあがって、今度ははるかかなたをさして飛んでいってしまいました。だれか、打ちそこなったのだなと思っていると、そこへ猟師がやってきました。
「いまごろ、おまえさんは、なにを釣っていなさるんだい。」と、猟師はききまました。
「なん…