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煙突と柳
えんとつとやなぎ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「芸術自由教育」1921(大正10)年3月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者富田倫生
公開 / 更新2012-07-06 / 2014-09-16
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 冬の晴れた日のことであります。太陽は、いつになく機嫌のいい顔を見せました。下界のどんなものでも、太陽のこの機嫌のいい顔を見たものは、みんな、気持ちがはればれとして喜ばないものはなかったのであります。
 太陽は、だれに対しても差別なく、いつでも、喜んで話し相手になったからであります。ちょうどこのとき、太陽は、ちょろちょろと、白い煙をあげている煙突に向かって、
「このごろは、なかなかお忙しいようだが、おもしろいことがありますか。」と、にこやかに笑って、太陽は聞きました。
 煙突は、いつもは、黙って、陰気な顔をしてふさいでいたのですが、このときばかりは、なんとなく、うれしそうにはしゃいでいました。
「おかげさまで、このごろは、毎日おもしろいめをしています。ほんとうに、私は、しあわせでございます。」と、煙突は答えました。
「どんなおもしろいことか、聞かしてくれないか。」と、太陽はいいました。すると、煙突は、つぎのような意味のことをば物語ったのであります。
 ――ほんとうに私は、どんなに寂しかったかしれない。長い間、みんなは私を振り向いて見てくれるものもなかったのです。私は、終日雨にさらされていることもありました。また、真っ暗な晩、風に吹きつけられて、身をゆすぶられていることもありました。もし、こうして、だれもかまわんでいたら、私の体には、いくつも小さな穴があいてしまって、もはや永久に、役に立たなくなるであろうと悲しんでいました。
 虫や鳥などは、私をばかにしました。鳥は、よく私の頭の上に止まって、内をのぞいて見ながら、
「こんなにきたなくては、巣も造れない。」といいました。
 くもは、わがままかってに、私の内側にも、また外側にも網を張りました。もとより私に、一言の断りもいたしません。それほど、みんなは私をばかにしたのです。
 そのうちに、夏もゆき、秋がきました。秋も末になると、ある日のこと、ペンキ屋がきて私を美しく、てかてかと塗りました。私は、思いがけないりっぱな着物を着たのでうれしかった。また二、三年は、どんな雨や、風にも負けないと思ったからです。
 冬がくると、急に私は、人間から大事にされました。私の内部のすすや、あのくもの巣などは、きれいにはらわれたのです。それからというものは、なんという私の生活の変わり方であったでしょうか。
 毎日、毎日、私は、いやというほど、石炭を腹に入れます。もはや寒い、ひもじい思いなんかというものは、夢にも忘れられたような気がします。そして、私は、どんな寒い日でも、暖かに、風や、雨と戦うことができるのです。人々は、私の働きと力とをはじめて認めてくれたように、私の下で燃え上がる火のそばによってきます。そして、そこに、どんな光景が見られるとお思いですか?
「いや、私は、屋根の上ばかりしか見ることができない。家の中のことはまったくわからな…

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