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教師と子供
きょうしとこども
作品ID51025
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「芸術自由教育」1921(大正10)年3月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者富田倫生
公開 / 更新2012-07-11 / 2014-09-16
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 それは不思議な話であります。
 あるところに、よく生徒をしかる教師がありました。また、ひじょうに物覚えの悪い生徒がありました。教師はその子供をたいへん憎みました。
「こんなによく教えてやるのに、どうしてそれが覚えられないのか。」といって、教師は歯ぎしりをして怒りました。
 けれど、その子供は、教えるあとから忘れてしまったのです。
「おまえみたいなばかは少ない。ほかの子供がこうして覚えるのに、それを忘れるというのは魂が腐っているからだ。おまえみたいな子供は、普通のことでは性根が直らない。」と、教師はいって、いろいろ頭の中で、その子供を苦しめる方法を考えました。いままで晩留めにしたり、立たせたり、むちでうったことは、たびたびあったけれど、なんの役にも立たなかったのであります。
 夏の日のことで、家の外は焼きつくような熱さでありました。教師は、ふと窓の外を見ましたが、あることを頭の中に想いうかべました。
 その物覚えの悪い子供に、金だらいに水を入れてそれを持たせて外に立たせることにしました。
「この水が熱くなるまで、こうしてじっと立っておれ。」と、教師はいいました。
 子供は、教師の仕打ちをうらめしく思いました。そして、日の当たる地上に、金だらいを持って立ちながら考えました。
「ほんとうに自分はばかだ。ほかのものがみんな覚えるのに、なんで自分ばかりは覚えられないのだろう。」といって、涙ぐんでいました。その子供は、正直なやさしい子供であったのです。
 学校の屋根に止まって、じっとこの有り様を見守っていたつばめがありました。つばめは、たいそうのどが渇いていました。つばめはよく、その子供がやさしい性質であるのを知っていました。
「どうしたんですか。みんなが教室に入っているのに、あなたばかりここに立っているのですか。私は、たいそうのどが渇いています。この水を飲ましてください。」と、つばめは飛んできて金だらいに止まっていいました。
 子供は、いっそう悲しくなったのであります。
「ああ、たくさん水を飲んでおくれ。それにしても私は、どうして物覚えが悪いのだろう。私から見ると、おまえはどんなにりこうだかしれない。寒くなると、幾百里と遠い南の国へゆき、また春になると古巣を忘れずに帰ってくる。私がもしおまえであったら、こんなに先生にしかられることはないのだが。」と、子供はいいました。
 これを聞いていたつばめは、黙ってくびを傾けていましたが、
「そんなら、私が、あなたのお腹の中に入りましょう。」と、つばめはいいました。
 子供は、どうしてつばめが、自分の腹の中に入れるかわかりませんでした。
「ほんとうに、おまえは、私の魂になっておくれ。」と、子供は、つばめに向かって頼みました。
 つばめは、不意に自分の舌をかみ切って、足もとに落ちて死んでしまいました。
 子供は、夢かとばかり驚きま…

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